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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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17.宰相の考え

 今年の品評会も無事に終わった。

 ノマス領領主代理のトマスとは今年度の林檎酒の受け入れについて話を行い、手続きの後帰っていった。

 事後処理が落ち着くと、ようやく日常が戻ってくる。


 その日、朝議を終え執務室に戻って一息ついたところで、共に戻ったボードリエ侯爵に書類を渡した。

 私も学んだ魔術の教師の手配に関する書類だ。


「ステファン殿下に、魔術を学んでいただくのですか」


 怪訝な顔をする侯爵に頷き、説明の言葉を続ける。


「ご本人の希望です。魔術の腕前には自信が無いと気にされていたので私が提案しました」

「どの程度の技量か、陛下はご存じですか」

「魔力量としては、伯爵家の上の方と同じくらいでしょうか。中級の魔術は使えるとおっしゃっていました」

「それは……」


 一瞬口ごもると、侯爵は続ける。


「ご本人の希望もあるなら、学んでいただいた方がよろしいでしょう」


 侯爵の承認が下りた書類を受け取り、侍従に私の手紙と共に届けるよう指示を出す。

 そのタイミングで侯爵が人払いの許可を願い、私は侍女にはお茶の用意だけ命じて、部屋の外で待っているよう伝えた。

 部屋に二人になると、侯爵が口を開く。


「オルテンシア国にやっていた調査員が帰ってきました」

「早かったですね」

「ステファン殿下はお人柄も特に問題が無く、オルテンシア国では兄君と妹君と他の者の間に立つ緩衝材のような役回りをこなされておられたそうです。強いて言うなら、兄君と妹君があまりにも優秀で王子としての求心力がないということでしょうか」


 渡された資料を見ると、侯爵の言葉通りの内容が書かれていた。


「では婚約に問題はないのですね」


 王配に迎え入れるのに問題となる懸念はない。そう結論を下すと、侯爵は首を振った。


「問題は見当たりません。ですが、かの殿下でなければいけないという決め手もないのです」

「前陛下が言い残されたという一点で、問題はないでしょう」


 侯爵は長い沈黙の後、口を開いた。


「陛下は、どのような国を目指されていますか。お気づきだと思いますが、ステファン殿下を迎え入れることは、この国に否応なく変化をもたらします。それは、陛下が望む国のあり方に必要なことですか」


 以前、考えたことがある懸念を告げられる。ボードリエ侯爵も当然、思い至ることらしい。


「不敬を承知でお伝えします。血の濃さの問題ならば、どうとでも解決できるのです」

「クレモン侯爵家との縁組みを、考えておられましたか」


 お父様の生前から候補にあがっていた家を上げるも、侯爵は首を振る。


「いいえ。あそこのご子息は魔術は優秀と聞きますが、人間的に問題があるとも聞きます。私が考えていたのは別の人間です。ドミニクにお会いになられたと思います。彼はラシーヌ伯爵家の生まれですが大変優秀です。実家の後ろ盾が弱い点が気にかかり、養子に迎えました」


 驚きで声が出ない私に、侯爵は続ける。


「ドミニクも承知のことです。彼は去年、一昨年と二年続けて騎士団の武闘会で優勝しています。王家の血は入っていませんが、由緒ある古い血筋です。私は彼こそが陛下の隣に相応しいと思っておりました」


 つまり、私の婚約者として立てるために侯爵は養子にドミニクを迎えたのか。

 知らないところで私のために人の人生が変わってしまっていたことに愕然とするも、侯爵は表情を変えることはない。


「私の考えは、今も変わりません。この国を守り導くだけなら、ドミニクでもいいのでは。遺言を守っておられるだけならば、考え直されてもよいのではと思います」

「……不誠実なことをしろというのですか」


 なんとか言葉を絞り出すと、侯爵は薄く笑う。


「婚約破棄をされても、我が国の魔術の技術を持って帰ることが出来るのです。付加価値がついて王子が戻ってくるのですから、婚約解消という傷はついても損はない取引と判断する人も居るでしょう」

「その考えは、受け入れられません」

「ですが、この国の変革と混乱をもたらす王配よりも余程よろしいかと」

「……私が、ステファンのもたらす外の知識に振り回されているとでも言いたいのですか」

「そうは言っておりません。しかし、伝統を重んじる者にはそう見えるかもしれませんね」

「私がこの国をどう導くか、誰に何の許可を得るものでもありません。ですが、他ならぬボードリエ侯爵の言葉です。忠言として受け止めましょう」

「陛下の寛大なお心に大変感謝いたします」


 それ以上、侯爵は言うことはないようだった。

 下がらせた侍女を呼び新しいお茶を二人分淹れるよう指示する。しばらくの後、目の前に差し出された香り高いお茶に口を付けた。

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