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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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15.品評会3日目パーティ

 壇上から見ると、トマスの周囲に貴族が集まっていた。祝福の言葉を述べる者や、取引の申し込みを行う者だろう。二位、三位の発表があった領主の周りにも人が集まっていて、会場は和やかな雰囲気だ。


「私達も行きましょうか」


 ステファンを誘い、私も広間に下りた。



 トマスに改めて祝福を述べ、二位と三位だった領の代表者にも声をかける。二人は私が直接声をかけたことに恐縮しながらも、また来年のために頑張ると心境を語ってくれた。

 準備したチョコレートの様子を見に行こうと軽食のエリアに向かおうとしていると、若い女性に囲まれているデュフォ公爵と目が合った。柔らかい表情で相手をしているが、大分困っているようだ。視線で助けを求められる。

 ステファンと共に公爵に近寄ると、彼女達に一言断ってデュフォ公爵がやってきた。


「デュフォ公爵、ごきげんよう」

「シルヴィア陛下、ご機嫌麗しく存じます。助けに来てくださり、感謝します」

「私は何もしておりません。今日は、ステファンにデュフォ公爵をご紹介できたらと思っていました。ステファン、こちらデュフォ公爵です。私の従兄となります。我が国の唯一の公爵家ですので、今後何かと話をする機会は多いと思います」

「ご紹介を賜りました。殿下にお目にかかれて光栄です。ローランド・デュフォと申します」


 ローランドは、深く一礼する。


「デュフォ公爵、こちらはご存じの通り、オルテンシア国の王子、ステファン殿下です」


 ステファンが軽く頭を下げ、二人は挨拶と共に握手を交わした。


「グレイシス国は、いかがですか?」


 ローランドがステファンに問う。


「魔術は私が知るものより遥かに複雑で繊細なことができるのだと、日々驚いております。緑も深く、とても良い国ですね」


 にこやかに答えるステファンに、ローランドはさらに尋ねる。


「あちらは技術が進んでいると聞きます。ご不便ではないですか」

「いいえ。この国にはこの国のやり方があるだけですので、それを不便とは思いません」


 ローランドはステファンの答えに何か納得したようだった。


「ところで、リサ嬢にもステファンを紹介したいのだけれど、今日は?」


 私が尋ねると、ローランドは首を振る。


「妹も来たがっていたのですが、あまり体調がよくなく今日は連れてきていません」

「そうだったの。お見舞いに行っていいかしら」

「ありがたく存じます。陛下のお顔を見れば、きっとリサも元気が出るでしょう。どうか、ステファン殿下も共にいらしてください」

「私もよろしいのですか?」


 ステファンが尋ねると、ローランドは頷く。


「お恥ずかしい話ですが、妹は婚約者がまだおらず、婚約者という存在に憧れているようです。陛下のご婚約者はどんな方だろうと、家でもずっと話しています。ですので、もしよろしければ殿下も来てくださると嬉しいです」

「そういうことでしたら、陛下と共に伺います」

「感謝いたします。それでは、本日はご挨拶もできましたので、早いですがこれにて失礼させていただきます」

「ええ。リサ嬢によろしくね」

「お早いご快復を願っております」


 私とステファンの言葉に、ローランドは頭を下げる。


「陛下と殿下に心配いただいていたと伝えます」


 ローランドの後姿を見送って、ステファンが言う。


「デュフォ公爵の妹君はかなりお悪いのですか?」

「生まれつきの病気としか聞いていないけれど、よかったり悪かったりを繰り返しているわ」

「そうですか」


 話しているところで、クレモン侯爵が近づいてくるのが見えた。


「少し面倒な相手が来たから、気を付けて」


 ステファンが頷き、侯爵を迎えるために姿勢を正した。


「これは、クレモン侯爵。よい夜ですね」

「シルヴィア陛下。ご機嫌麗しく存じます」


 クレモン侯爵の目がステファンに行く。


「こちらは、婚約者のステファン殿下です」

「お初にお目にかかります」

「ステファン殿下、クレモン侯爵は建国当初から続く家で侯爵自身も炎魔術の名手です」


 私の紹介に、クレモン侯爵がゆったりと頷く。


「炎魔術は我が家の十八番です。機会がございましたら殿下にもご披露いたします」

「楽しみにしておきます」


 ステファンの答えに、クレモン侯爵が尋ねる。


「ところで、殿下は魔術の腕前はいかほどでございますか」

「どういった意味でしょう」

「魔術師の国に王配として迎えられるのですから、さぞやご高名な使い手かと思いまして」

「そこそこは使えますが、そういった意味でしたら、ご期待には添えないでしょう」


 ステファンは、答えにくいであろうクレモン侯爵の質問にもてらいなく答える。


「なんと! 他国の王族とはいえ、そのような方を陛下は婚約者として迎えられるのですか」

「クレモン侯爵。言葉が過ぎます」


 私の言葉にも、クレモン侯爵は止まらない。


「ですが、この国のためにも陛下のご夫君がどのような方かは重大なことです。陛下の氷の魔術と我が家門の炎魔術が組み合わされば、さらなる国の発展に繋がると思われませんか。我が息子は陛下と年頃も近く、一流の炎魔術の使い手。まだご一考の余地はございます」


 言い募るクレモン侯爵に、不快感が募る。


「理解できません。クレモン侯爵、それはステファン殿下と、殿下を婚約者に選んだ先王陛下への侮辱です。謝罪を求めます」


 一度目の静止を無視されたこともあり、氷魔術の攻撃術式を発動直前状態にし告げると、クレモン侯爵は魔術に込めた魔力を読み取ったのか、畏敬の目を私へと向ける。


「陛下。申し訳ありません。少々言葉が過ぎたようです」

「ステファン殿下に謝罪はないのですか」

「殿下、不快な思いをさせ申し訳ありません」

「お気になさらず。色々なお考えの方がおられると知れて、学びとなりました」

「クレモン侯爵、ステファン殿下のお言葉に免じて許しますが、二度目はないと心得なさい」


 侯爵が去ったところで、私は攻撃術式を解いた。

 クレモン侯爵家からはお父様の生前も釣り書きが届いていた。だが、家門の魔術至上主義の姿勢が強すぎると、除けられていたが、これほどとは思わなかった。

 ステファンはクレモン公爵の言葉に顔色を変えることはなかったが、かなり不快な思いをさせただろう。

 気分を切り替えるため、ステファンをバルコニーにへと誘った。

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