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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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14.品評会3日目表彰式

 品評会二日目は、王都内に借り上げた食事処で一ヵ所につき一種類の林檎酒を提供し、日没までに王城に投票に来ることになっている。

 平民の投票は気に入った番号の林檎酒に一票だけ票を投じることができるようになっていて、貴族のように項目に分けて評価はしない。

 それぞれの領地から応援に来た者や、今年一番の林檎酒を見極め仕入れようとする商人が王都にやってきて、かなりの賑わいだ。

 その間も、城の中では文官が一日目の集計を行っている。


 二日目の集計は、二日目の夜から三日目の昼にかけて行われ、三日目の昼に一日目と二日目を総合した結果が出る。

 その結果をもって夕刻に表彰式を行い、その後はパーティが開かれる。

 今回のパーティでは、ステファンから提供されたチョコレートのレシピを王宮の料理人がアレンジして、林檎をチョコレートでコーティングした菓子を提供することにしていた。

 貴族達の反応を見る絶好の機会だということで、チョコレート以外の菓子も供する予定だ。見たことがないからと倦厭する者を少しでも減らそうと、ステファンの提案で、説明の人員を充てている。

 ここで反応がよければ、輸入の調整を進めることになっていた。


 三日目。

 集計を終えた品評会の担当文官から結果を受け取り、ステファンを待つ。

 支度を終えると、一日目と同じようにステファンが迎えに来た。


「今日は一段とお美しいですね。朝露に濡れた白い薔薇のような陛下をエスコートでき光栄です」


 本日は青みを帯びたシルバーのドレスだ。ホルターネックのマーメイドドレスで、同じく透明度の高いブルー・ダイヤモンドのティアラを付けている。ヒールを履いた私よりも、ステファンの方がわずかに背が高い。

 ステファンは黒の礼服に、アクセントで淡い水色のポケットチーフだ。金色の髪が礼服の黒に映えて、いつにも増して格好良く見える。


「ステファン殿下も、本日もご機嫌麗しいようですね」

「無論です。陛下をエスコートする栄誉を賜るのですから」


 挨拶を受けると、ステファンが言う。


「本日の装いも本当に素敵ですが、是非、今度は私にもドレスを贈らせて下さい」

「では、婚約披露宴の時かしら。どんなドレスを選んで下さるのか楽しみにしています」

「お任せ下さい」


 ステファンの腕を取り、歩き出す。ふと、ステファンが私の方を向く。


「緊張なさっておいでですか?」


 声を落としてかけられた言葉に、思わずステファンの顔を見ると意外にも彼は心配そうな目をしていた。


「彼らが毎年どれ程の熱量でこの品評会に臨んでいるか知っているので、少し肩に力が入っているかもしれないですね」


 毎年、発表前のこの時間は、会場にも張り詰めた空気が流れている。私は結果を告げるだけだが、やはり緊張はする。


「陛下の憂いを、私が払えたらよいのですが」

「お気持ちだけで、十分ですわ」


 それでも眉尻を下げ心配げな表情を崩さないステファンに、なんだか少し心がほぐれた。


 会場に入ると広間に居る貴族達が一斉に頭を下げている。

 広間は魔術で飾り付けられている。シャンデリアには魔術の光が輝き、各所に飾られた花にも光魔術がかけられ、夜だというのに広間は明るく照らされていた。

 定位置に立ち、姿勢を正すように告げて話し始める。


「今年はどの領の林檎酒も味が良く、皆様の熱意と努力の結晶を私も心ゆくまで味わいました。正直、どの領のものが選ばれてもグレイシス国の代表として、誇るべき出来です。まず、そのことをお伝えします」


 一度、広間を見回して続ける。


「それでは、厳正なる審査の結果をここに発表します」


 三位から二位までの順位を発表し各領地の代表に拍手が送られる。それが落ち着いたところで、優賞者の発表となる。


「今年の最優秀賞は、ノマス領の林檎酒となります」


 カメル橋は落ち、途中品評会への参加も危ぶまれたが林檎酒は評価された。少しでも今回の優勝が希望になればと思う。


「ノマス領代理、トマス・オルム。前へ」


 クリスタルで出来た優勝のトロフィーを宰相から受け取り、トマスに手渡す。


「おめでとうございます。大変な時ですが、来年も期待しています」


 トマスは謝辞を述べ、会場に割れんばかりの拍手が満ちる。

 拍手が落ち着いたところで、私はトマスに発言を促す。


「今年の栄誉を頂けましたこと、誠に光栄に存じます。実は、品評会の直前に、ノマス領とボルトラス伯爵領の間にあるカメル橋が雪崩による増水で流され、本年は品評会への参加は危ぶまれておりました。陛下とボルトラス伯爵のご尽力なしに、ノマス領の林檎酒を出展することは出来ませんでした。ご協力してくださったボルトラス伯爵には感謝を、そして、陛下には今以上の忠誠を捧げます」


 一礼して広間に戻るトマスに、暖かい拍手が贈られる。

 ひと段落ついたところで侍従の手によりグラスが配られる。私とステファンも細身のグラスに注がれた林檎酒を受け取った。もちろん、今年のノマス領の林檎酒だ。

 全員に配られ終わったのを確認してから言う。


「では、今年のノマス領の栄光を讃えて」


 皆がグラスを掲げ、宴が始まった。

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