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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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13.品評会1日目

 城に戻ると、しばらくは留守にしていた間に書類が溜まっていた。

 宰相のボードリエ侯爵が進めてくれている事案もあるが、私の最終確認が必要な物も多く残っている。

 ノマス領の橋と魔鉱石の件は温室の件と共に親書を送り、今はオルテンシア国からの返事待ちである。


 私が執務にかかりきりになっている間にも、品評会に出品する林檎酒も各領地から続々と到着していた。

 ノマス領の林檎酒はもちろん、他領の林檎酒も到着している。王宮は代表者のもてなしと、品評会に出品される林檎酒の管理でいつもより慌ただしい。王宮に到着するまでの品質管理は出品者の仕事だが、王宮の保管庫に到着後は王宮の管理下に置かれる。万が一にも不備や不正が起こらないよう采配には神経を使う。


 品評会自体は、三日に分けて行われる。

 一日目は王族と貴族による品評、二日目は広間を民に開放し民からの投票、三日目に投票の結果を集計し、その年の最優秀賞の表彰式となる。表彰式の後には王宮でパーティが開かれる。

 春の祭りのようなイベントだ。


 それから一ヶ月弱。品評会の当日となった。

 今日は春らしく薄い桃色の花をモチーフにした華やかなドレスが用意されている。差し色にステファンのポケットチーフと同じペールブルーを使い、パートナーとして一目でわかるようになっていると聞いていた。


「陛下、お迎えにあがりました。今日の陛下は、花の妖精のように麗しいですね」

「ありがとう。殿下も今日もとても素敵です。それでは行きましょうか」


 迎えに来たステファンと共に会場へと向かう。

 ステファンも一日目から参加する。彼が林檎酒を好んでくれていてよかった。


 王族のための扉から王宮の広間に入ると、集まっている貴族たちが頭を垂れて私の入場を待っていた。頭を上げるように言い、全員が頭を上げたところで話し始める。


「遠きところ、皆、よく来てくれました。今年も新しき春を迎え、各領の林檎酒(シードル)を持参してくれたこと嬉しく思います。例年の通り、品評会で最優秀賞を得た領地の物をこれから一年間、王宮で取り扱います。今年はどの領地の出来も良いと聞いていますから、楽しみにしています」


 私が話している間にも、隣にいるステファンへ戸惑いの視線が寄せられている。


「喜ばしいことに、先王陛下が生前、私に縁談を組んでくださっていました。婚約者のオルテンシア国の王子ステファン殿下です」


 私の言葉を引継ぎ、ステファンが続ける。


「ご紹介を賜りましたステファンです。非才の身ですがグレイシス国の発展に寄与できますよう、微力を尽くします」


 広間の貴族達からは一斉に拍手が贈られる。


「婚約披露の場は改めて設けます。私と同じように彼の存在も尊重するよう、貴公らには求めます。それでは、今年の品評会を始めます」


 私が頷くと、城の侍従により貴族達に林檎酒採点用のボードが配られる。品評会には、各領地を代表し四十五種類の林檎酒が届いている。林檎酒を造っている林檎農園自体はもっとあるが、王宮の品評会に出品できるのは、各領地一枠まで。各領地で最も出来が良い林檎酒に絞って出品される。


「これはどうしたらいいのだろうか?」


 侍従が持ってきたボードを見て、ステファンが言う。ボードの上には紙が挟んであり、表が書かれている。項目は、左から、番号、色、匂い、味、炭酸の気泡の出方、そして全体の総合評価だ。


「ホールの壁際に、それぞれ番号が振られた場所に林檎酒が用意してあります。飲んだ番号の林檎酒の評価をその表に書き込むようになっています」

「ああ、公平を期すために、どの領地の林檎酒かはわからないようになっているんですね」


 ステファンが納得したように頷いている。


「純粋に味だけで判断できるようにということになっているわ。自分の領地のものはわかるでしょうけれど、それも表立っては言わないのがルールになっているの」

「アルコールが飲めない場合はどうするのです?」

「代理を立てることになっています」

「なるほど」

「試飲はほんの一口位ですが、侍従に言えば水が貰えるようになっています。もし気分が悪くなったら控室が準備されていますから、すぐに言ってください」

「わかりました」


 広間を見ると、既に貴族達は林檎酒の試飲に入っていた。多少の前後はあるが、だいたい均等にブースに散っている。


「見て回る順番はありますか?」

「特にないわ。強いて言うなら、空いているところから回る感じかしら。では、私達も行きましょう」


 私の言葉に、ステファンが腕を差し出した。


 ホールに下りると、比較的空いているブースへと向かう。

 林檎酒のサーブも、城の従者が行うことになっている。ブースで、小さめのグラスに入れられた林檎酒を貰い、見た目の確認をした後味を確認する。


「こちらは王宮でいただいた物より甘いですが、炭酸は強めでさっぱりした飲み口ですね」

「そうね。ステファンはお気に召しました?」

「まずまずといったところでしょうか」


 ステファンの言葉に相槌をうち、手元のボードに点数を書き込む。

 会場を回っていると、他の者の会話が聞こえてくる。


「ここも美味でしたが、七番の方がは口当たりも味も秀でておりましたな」

「私は十八番の方が好みでしたわ。最終日に、領地がわかったら買い付けをお願いしようと思っていましたの」


 すれ違う貴族達の会話に耳を澄ますと、人気が集中しているのは、七番と十八番のブースのようだった。


「この品評会で、国内での取引を活発にされているのですね」

「ええ。大切な行事です」


 話題になっていた七番と十八番のブースで試飲すると、確かに他の所よりも味が一段良いようだった。


「どちらを推すか、悩みますね」

「ええ」


 真剣な吟味の末、結論を記入する。

 すべてのブースを回り結果を記入した後、回収の者にボードを渡してステファンと共に退室した。

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