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氷の薔薇がとけるまで 遺言で知った婚約者に、政略結婚を望んでいたはずの女王陛下は恋に落ちる  作者: 乙原 ゆん


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12.復旧に向けて

 カメル橋に仮設の橋を建設した翌日。

 見立てよりも少し早く民の往来が可能となり、ボルトラス伯爵領に留まっていたノマス領民も帰路についた。ノマス領から出て来る者の中にはノマス産の林檎酒を積んだ荷馬車もある。これで品評会への参加は間に合うだろう。


 橋の開通を見守った後、ボルトラス伯爵からステファンと共に領主の館に招待された。ノマス領の代官も呼ぶという。今後のカメル橋の復旧に向けて話し合いたいそうだ。

 遅い昼食をご馳走になり、会議の席に着く。

 ノマス領の代官は文官然とした役人で、オルム子爵家の縁者でトマスと名乗った。一度はカメル橋の様子を見に来たそうだが、カメル橋が落ちたことで領内の混乱が大きく、その対応に手を取られていたために現場はボルトラス伯爵に任せていたと話してくれた。

 ステファンを紹介し、話し合いが始まる。


「今後について、折角ですので陛下とご婚約者でられるステファン殿下にもご臨席いただき、意見の交換をしたく思います」


 ボルトラス伯爵は、手元の資料に目を落とした。


「カメル橋ですが、建設には四年かかっています。当時の建設費用は予算の他に、かなり寄付を募っています。同じ物は期待できないでしょう」

「建設費用は課題ですが、ノマス領にはあの橋が必要です」


 トマスの言葉に伯爵は頷く。


「しかし、同じ物を作り直したとしても、またあのような災害が起きれば同じ事です。ここは、多少予算が膨らんだとしても、上流で雪崩が起きた場合のことも考慮に入れるべきでしょう」

「そう、ですね……」


 費用のことを考えているのか、トマスは暗い顔をしている。


「ところで陛下が造ってくださった氷の橋は、ずっと使えると思ってよろしいですか。新しい橋を建設するにしても、年単位の期間が必要です」


 伯爵の言葉に、私は答える。


「魔術で作り上げた後、状態固定の術式もかけています。術式を解かない限りあの橋は残ります。ただし、懸念があります。不特定多数があの橋を使用します。不慮の事故など起きないよう、過去の例に倣い、少なくとも半年に一度は安全を点検した方がいいでしょう」


 過去にも魔術による建造物を一時的に代用することがあった。そのことを話すと、伯爵とトマスは頷く。


「でしたら、ノマス領としましては、予算の目処がつくまで、陛下に造っていただいた橋を運用する方向でお願いしたいです。恥ずかしながら、すぐに新しい橋を建設する程の余裕はないのです」

「仕方がないでしょう」

「ステファン殿下は、何か意見はありますか?」


 トマスの消極的な言葉に伯爵が頷いたところで、私は思案にふけっているステファンに発言を促した。ステファンは一同を見回した後、口を開いた。


「あまりグレイシス国のことを知らない私が何か言うのはと思っておりました。発言をお許しいただけるのでしたら、少し意見を述べてもよろしいでしょうか」

「勿論です。ステファン殿下との婚約の条件に、技術提供の条項も入っています。遠慮無く話してください」


 私の言葉に、伯爵もトマスも頷く。


「近年、オルテンシアで新しい建築技法が開発されました。橋の建築に、鉄を使うやり方です。従来の木造だけの物に比べて強度が増していると聞いています」

「鉄を使うのですか」

「それは、頑丈そうですね」


 伯爵とトマスの言葉に頷きステファンは続ける。


「そうですね。ですが、専門家ではないので、その工法が今回の場合に適した形式かどうかがわかりません」


 ステファンの言葉に、私は言う。


「では、専門家を呼ぶことはできますか」

「問題ありません」

「後は予算の問題だけとなるのですね」


 新技術ということは、それなりの金額になるだろう。だが、どうやらそちらにもステファンは解決の道を見い出していた。


「そのことですが、一つ、トマス殿に確認をよろしいですか」

「ええ、何でもお聞きください」

「ノマス領には、何か鉱山はないのですか?」

「鉱山ですか? いえ、ありません」


 金や銀が出れば、そもそも予算の問題など起きないだろう。


「昨日、川岸でに魔鉱石を見つけました。増水でほとんど流されているようですが、おそらく上流の山のどこかに、魔鉱石の鉱脈があるでしょう」

「魔石ではなく、魔鉱石ですか……?」


 トマスの言葉にステファンは言う。


「厳密に言えばどちらも同じなのですが、宝石として加工ができない魔力を含んだ鉱石をオルテンシアでは魔鉱石と呼んでいます。魔道具の部品として重宝していて、我が国では需要が高いのです」

「ということは、買い取って頂けるのですか」

「含む魔力の質に寄りますが、拾った魔石はどれも質はそこそこ良いと感じました。悪くない値段になるでしょう」


 ステファンからもたらされた情報は、私にとっても驚きの言葉だった。


「鉱山を拓くにしても、ノマス領の林檎畑に影響はありませんか」


 私の言葉に、ステファンは頷く。


「そこは私も懸念しています。鉱脈の場所次第では、検討が必要でしょう」

「まずは調査が必要ということですね」


 新しい可能性を知らされ、呆然としているトマスと伯爵に向かって言う。


「私としては、鉱山の調査を行いたいと思いますが、二人の意見はどうですか」

「もちろん、お願いしたいです」


 二人の答えに頷き、ステファンに頼む。


「調査の費用は王宮で負担しましょう。ステファン殿下、鉱山の件も含めて、オルテンシア国へ依頼を願います」

「かしこまりました」


 その日はそのまま伯爵邸でもてなされ、翌日、王宮へと帰ることになった。



 帰りの馬車の中で、私はステファンに話しかけた。


「ステファンのおかげで助かったわ」

「私は何も。実際に魔術で橋を作り、ノマス領を助けたのはシルヴィアです」

「私だけなら、橋の新造については手詰まりだったでしょう」

「それもまだどうなるかわかりません。期待外れだったらどうしようと、今から心配しています」


 少し自信がなさそうに答えるステファンに、私は首を振る。


「そうなっても誰もステファンを責めません」

「それは心強いですね」


 万が一、鉱山の当てが外れた場合は、私がフォローすればいい。そう考えながら、黙り込んだステファンと共に流れゆく景色を眺めた。

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