第六星 上空戦
災避の壁が消え、私の投げた“イマジナリーボム”が炸裂し───星喰雌龍のブレスが消え、星喰雌龍の行動が一瞬止まった。
「エネルギーバレット───応えよ、星の神秘たる光。停止具現す雹よ、弾となり───」
私の箒に乗って滞空している状態で水星の魔弾を装填する前にランが紡ぐ氷属性の詠唱。こういう単純な属性詠唱は基本型が一緒。だけどその属性の強さはアズマントの時に使った火より強いもの。
「凍結の狙撃弾、“フリーズスナイパー”」
氷属性第二段階、凍結。あの星喰雌龍が使っているのは火属性第三段階の火焔だから効かないけれど。注意を引くのと一瞬思考を止めさせるには十分。
【キュァァァ!!!】
「“凍結の鎖”!!」
動き出そうとした星喰雌龍の足元に氷の鎖を張ったのが見えた。
「主スティラ、お願いします!」
「了解っ!」
詠唱省略だから長くは保たない。すぐにこの空域を離脱する───案の定、すぐに砕いて私達を追ってきた。
「……!!!」
ルシリールは急な直上加速───地表と水平であり、その進行方向を0°として上方75°以上上方105°以下への急加速をそう言う───によって急激にかかるGと風に私にしがみつくので必死。風圧・空圧は圧力障壁で相殺されてるから問題ないし、Gは過剰重力加速度双方向相殺障壁で相殺されてるから問題ないのだけど…突風のこと忘れてた、普通に。まぁ鎌鼬とかにはならないから問題ないと思うけど。
ダンッ!!
【ギュァッ!?】
「水星の魔弾、逆鱗に命中しました!」
ランの声に加速させたままランが手に持つ武器に目を向ける。───日本製回転鎖閂式対物狙撃銃“運命星”。ランが扱う武器の中でも2番目の瞬間火力を持つ銃。銃身長410mm、全長933mmの最大装填数5発。口径は12.7mmで主な使用弾薬は12.7x100mm(10.5x90mm) 二重徹甲弾と12.7x99mm NATO弾。最大射程は15km、有効射程は11km。製造は弓ヶ咲星鋼。…数十年前の対物狙撃銃とか軽く越えた射程持ってるの普通に馬鹿げてるから考えるのをやめた方がいい。ちなみに今回用意していた水星の魔弾は12.7x99mm NATO弾と全く同形状のもので、有名なフランス製ターンボルト式ボルトアクション方式アンチマテリアルライフル“PGM へカートⅡ”でも使える銃弾。
「主スティラ、来ます!」
「こっちでも確認…!揺れるよ、ルシリール!」
加速させたまま上方90°に飛び上がり、かと思えば下方75°で急降下。左方65°に急転回して上方85°で飛び上がる。無言詠唱で起動しておいた熱源感知に反応のあった火焔球が私達の周囲を逸れていく───否、火焔球の弾道を予測し、その弾道から私達自身が外れる。
ガシャン、ダンッ!!
ボルトを回転して解放、ボルトを引いて廃莢、ボルトを戻して装填、再度回転させて閉鎖───からの即撃ち。高速鎖閂装填はランの得意技だけど、それよりもランが異常なのはどんな悪環境でも狙撃を絶対に外さないこと。流石に一点に集中させるのは少し時間が必要だけど、“標的に当てる”だけであれば薬室解放から射撃まで0.1秒で足りる。…その高速鎖閂装填に着いていける弓ヶ咲星鋼製の武器も色々とおかしいのだけど。
ガシャン、ダンッ!!
ガシャン、ダンッ!!
ガシャン、ダンッ!!
続けて3発分の高速鎖閂装填。これで1マガジン消費したことになる。
「報告します、逆鱗命中弾数4発!残る1発は左翼に命中!」
「了解、続けて!」
「畏まりました!それから主スティラ、弾幕の密度が増します!ご注意を!」
「分かってる!」
体力が減れば攻撃はより苛烈になる。このままじゃ弾幕戦になるけど───この場所じゃちょっとダメだ。
「水星の魔弾撃ちきったら教えて!」
曲芸飛行ともいえそうなそれを行いながらもランに指示をする。割と幸いなのは繁殖期で軽い暴走状態に陥ってる星喰雌龍の放っている火焔球達が全部私達狙い───どこかのゲームでは“自機狙い”と表現されるような弾幕であること。1度避ければその火焔球は消えるし、避けるの自体は結構楽。…問題はその数が多いことだけど。
ダンッ!!
私と話している間にリロードと装填を終わらせていたランは無言で狙撃を行う。危険度Aでも相手はレイドボス───本来ならたった2人で相手するようなものじゃ絶対にない。通常の場合、超大型は20人以上での戦闘が行われる。そして危険度もそれを前提としてつけられている。だから正直今の状況で超大型用の危険度なんて当てにならない。
「ほんと───嫌になるねっ!!」
ガシャン、ダンッ!!
“少人数でも倒せなくはない”。でもそれは結果的に倒せなくはないだけであって、非常に高い危険性を持つ。負傷だけならともかく、死去することだってあり得なくない。
ガシャン、ダンッ!!
にも拘らず、増援を寄越そうともせず討伐隊を組もうともせず、その場に立ち寄った少数の流れ星に任せるのはその流れ星に“死ね”と言っているようなものだ。
ガシャン、ダンッ!!
───そうだ。私とランは星間ギルドから……いや。正確には星間ギルド地球代表理事兼星間ギルド地球内アメリカ合衆国支部支部長から嫌われている。ザニアに来る前にランに届いた出頭要請メッセージもこの地球代表理事からのものだ。出頭要請という体で私達の生存を確認する。遠くに行かないように定期的に呼び出す。あわよくば隕石に当たって死んでしまえばいい───
ガシャン、ダンッ!!
【キュゥゥゥァァァァ!!】
「報告します!“水星の魔弾”全弾命中!うち逆鱗を捉えたのは7発、残り3発はそれぞれ左翼、頭部、胴体へと命中!」
「了解っ!しっかり掴まってて、ラン、ルシリール!!ルシリールは特に私のこと抱き締めたって構わないから!」
「!?!?!?」
身体を前方に倒し、箒と密着するような状態で上方90°に加速。無言詠唱で無属性Si Skill“ほうき星の光翼”を起動する───
「衝撃に備えて───大気圏を突破する!!!」
その言葉の後、上空戦の数十倍もの速度で箒は飛び始めた。