第四星 偵察
さて。ザニアに来て、次の朝が来た。
「ラ~ン…いる~?」
「は、ここに。」
「今日は偵察行くよ~。…少数での超大型相手は少し久しぶりだし、周辺の環境…特にランの狙撃ポイントとか決めないとね」
「はい、主スティラ。」
今回の相手は空中にいるタイプだ。私も遠隔攻撃はできるとはいえ、ランの超長距離狙撃には劣る。
「エネルギーシューズ、飛翔起動」
Si Skillは何も戦闘だけのものではない。物語に出てくるさまざまな魔法がそうであるように、日常生活で使えるSi Skillも存在している。
「環境索敵───主スティラ、結構凸凹してますね…」
「そうだね~…ん?」
「?」
「…存在索敵」
オブジェクトサーチに普通のオブジェクト……いわゆる静的オブジェクト以外の何かが映り込んだ。それゆえに動的オブジェクトのみを索敵するユニットサーチに切り替える。…“静的オブジェクト”と“動的オブジェクト”という言葉はブログラム系統の用語ではあるのだが。それは、とりあえず置いておくとする。
「…そこの…ザニアに住まれる方。何をしているのですか?」
「…っ!?」
背後で声をかけると息を吞んだ音が聞こえた。…恐らく気が付かれるとは思っていなかったのだろう。
「ど、どうして…」
「Si Skillを見るのは初めてなのかな?…ザニアに住む少年さん。」
ザニア人。の、若い男の子。恐らくは私より若い…ザニア人は、手の指が3本であることと耳が尖っていること以外地球人と変わらない。
「何か用でも?」
「あ、あの…お、おんしらあの星喰らいに挑むんね!?」
星喰らい───星侵獣の別名でもある。
「ええ、そうですけど…」
「わ、わよも一緒に連れてってけろ…!!」
「「“わよ”…??」」
……さすがに。そんな一人称は聞いたことがない。あと…
「できません。流れ星でもないあなたに、危険を冒させることはできませんから。」
流れ星…というか、星間ギルドの規約としては“民間人に星侵獣の討伐を同行させてはいけない”というようなものは存在していない。それは最下級であろうと、上級であろうと同じだ。
「そもそも、武器を持っていないような…それ以前に、Si Skillを見たことすらないようなあなたを連れて行くのは危険すぎますから。…ごめんなさい。」
「でも…!」
「主ッ!」
ランの警戒を促す声。とっさに少年を地に伏せさせ、空を見上げる。その空に飛ぶ───“赤色の飛竜”。
「やっぱり───“星喰雌龍”ッ!!」
「それも繁殖期個体です、主!」
ランの言葉に思わず歯噛みする。同じ種の個体であっても“繁殖期個体”、“妊娠中個体”、“出産後個体”程面倒な相手はいない。
「あ…あいつ!あいつがみんなを!!」
「ちょっ、叫ばない───っ!応えよ、星の神秘たる光。惑わしの幻よ───!!」
既に星喰雌龍に捕捉され、あちらもブレスの準備に入っていたが、こちらも詠唱がギリギリ間に合う。
「───我ら姿隠したまえ!!」
幻惑系Si Skill、“幻像隠蔽”。同じようなSi Skillを持っていないと見破れない…ものの。そこにいるという情報は変わらない。そのため───
「精度悪いけど───“反炎障壁”!!」
詠唱省略のSi Skill。即座に発動できる反面、Skillの精度が非常に悪い。そのため───
「あ゛っ……!!」
「主っ!!!」
本来炎を防ぐこの障壁が、不安定な影響で炎をそのまま通してしまう。即ち、障壁を支える手が炎で焼ける。
「災いを避ける壁よ、災いより守護せし焔よ───今応えたまえ、主君への道を阻む守護者!!“災避の壁”!!」
ランが起動したSi Skillで私の手にかかる熱が消える。…両手が、痛い。
「申し訳ありません、主スティラ!」
「別に、いいから……災避の壁の維持に努めて……」
「承知しました…!」
ランの声を聞いてから一旦深呼吸。
「応えたまえ星の光。傷を負いし流星に小さな癒しを与えよ…」
Si Skillはその原型が魔法。だからこそ、回復系Si Skillもある。…私はあまり上手じゃないから、痛みが多少引いて止血ができる程度で手のひらが焼け爛れてるのは変わらないけど。…痛みが引けば、刀は握れる。
「応急処置は終わったよ、ラン。…どう?」
「……ダメですね。こちらへの興味が抜けません。」
「……やっぱり、か。」
繁殖期個体だったときから嫌な予感はしてたけど。…仕方ない。
「ラン、予定変更。……いまここで討伐する。」