第三星 ザニアという星で
“ザニア”。知っている人は少ないかもしれないが、“乙女座”の一部。
「お待ちしておりました、“渡り星”様」
…で。ザニア人……って言っていいのだろうか。ザニアに住んでいる人ではあるけれど。そのカウンターマスターがステラーシップから降りた私に話しかけてきた。
「わざわざ待ってたんです?」
「えぇ…あまりこの星に立ち寄る方はいらっしゃいませんから。」
「「あ~…」」
三等星以下の星はあまり流れ星達の中でも立ち寄る人が少ない。多分“スピカ”とかなら人は多いんだと思う。
「渡り星様。こちら、全住民からの依頼のリストになります。」
「あ、はい…というか。貴方は私達のことを“渡り星”と呼ぶんですね。」
基本的に“流れ星”と呼ばれる私達だが、それ以外にもいくつか呼称がある。“渡り星”、“星の旅人”、“星渡り”、“彗星”、“ほうき星”…その他多数。
「…ありがとう、マスター。カウンターまで行く手間が省けたよ。」
「ありがたきお言葉…」
渡された依頼リストをざっと流し見る。…うへぇ、アズマント・クラウドの依頼が5件…
「…あ」
「主スティラ?」
「…見て、ラン。超大型がいる…」
超大型───本来20人以上の流れ星が必要な案件。別に少人数で挑むこともできなくはないものの…長くなりそうだ
「マスター。この超大型はいつから?」
「おおよそ半月前…でしょうか。突如首都の上空に出現したのです───“上級空中超大型非増殖式星界侵略魔獣ドラギュート・フーリス・ジ・アスケラ”が。」
Theの冠詞。ということは───
「“星の刺客”…それも“天府”か…」
「…はい。おっしゃる通りです。…こちら、詳細です」
マスターから渡された紙を一読する。
Steller Eclipse Aggression Enemy Status
Name───Dragute foulis The Ascella
Rank───High
Move───Air
Type───Super Large
Clone───False
Ascellaとは、いて座ζ星のことだ。そこまで多くはないものの、Theの冠詞の後に星の名を持つ星侵獣が出現することがある。私達流れ星はそれを、“星の刺客”と呼んでいる。
「…ホント、地球のギルドはどうしてこういう大型を放置するのか……いや、地球だけじゃないか。太陽系のギルドは結構放置しがち…」
「……」
「マスター。長期滞在できる宿とかはある?」
私の言葉にマスターが顔を上げる。
「引き受けてくださるのですか!?たったお二人で!?」
「当然。…私としてもこの星がなくなって乙女座が見れなくなるの嫌だし。どうせこの案件、地球のギルドが放置してたんだろうし…」
……“どうせ、私がどうにかするだろうと思ってるんだろうし”、という言葉は飲み込んだ。
「…ラン、行こう。今回の滞在は長くなるよ。」
「はい、主スティラ。」
「───ありがとうございます、渡り星様!!」
「お礼なんていいよ、別に」
超大型星侵獣。ゲームとかで言うレイドボス級ではあるけれど、別に少人数でも倒せなくはない。…だからって、超大型の討伐を私達みたいな自由に星を巡る少数の流れ星に任せるのはやめてほしいのだが。