第3章 邪神大戦 第70話 神々の黄昏②
打開策として想定しているのは勿論ナイアルラトホテップが齎すであろう図書館の知恵なのだが、一向に戻る気配が無い。
まさかクトゥルーの言うようにナイアルラトホテップが逃走したとは思えないが戻れない理由も判らない。ナイアルラトホテップであれば、それほど時間を掛けずに最適解を持ち帰ると疑っていなかった。
それが戦いが終盤を迎えようとしているにも関わらず、まだ戻らないことは異常事態と言える。
その頃、ナイアルラトホテップはナイアルラトホテップで深刻な問題に直面していた。
図書館で何らかの打開策を探していたナイアルラトホテップが、とうとう見つけたもは逆にアザトースを筆頭にその配下を封印する方法だった。
各々のものについて各々の方法での封印が記されている。その特性に合わない方法では封印できないのだ。
「これは拙いな。この方法を相手方が知れば、我らは完全に封印されてしまう。もしかすると既に持っている可能性もあるな」
ナイアルラトホテップは急ぎ戦場へと戻ることにした。封印される方法が各々判るのであれば、その対策も建て甲斐がある。封印を回避し続ければ勝ち筋も見えて来るだろう。
「いや、待てよ。今のところ、こちらの陣営の力あるものたちは出ていないこともあって封印されたものは居なかった。それが力あるものたちが戦場に立てば事態は変わって来るだろう。だとするともう少し時間があるのか」
まだ暫らくは配下の力なきものたちで十分時間を費やせるはずだ。その間に、逆に相手を封印する方法などが見つかれば負けない算段ではなく勝つ算段が立つのではないか。
ナイアルラトホテップは戦場に戻るのを後回しにして、相手を封印する方法を探し始めた。
相手を打ち負かす方法ではない、相手を封印するのだ。それは相手かこちらを滅することができない理由と同じだった。
特に相手は群体なので消滅する時は全てが消滅してしまうのだ。それは宇宙の崩壊を意味している。こちらもアザトース様が本当に滅されてしまえば宇宙は崩壊するだろう。それはナイアルラトホテップやヨグ=ソトースでも同様だ。もしかするとクトゥルー辺りでも崩壊が始まってしまうかも知れない。
巨大な質量、エネルギーの消滅は、どちらの陣営であっても大問題だった。その辺りは相手も把握しているのだろう。
(見つけてしまったのだな)
「誰だ?」
ナイアルラトホテップの頭の中に直接思考が流れ込んできた。当然相手方の誰かだろう。群体なので一部、というのかも知れない。
(我の名はノーテンス。我らの中では唯一の名を持つ存在ではある。ただ我らの中の他とのさは特にないのだがな)
「そのノーデンスとやらが何の用だ」
(ナイアルラトホテップよ、図書館の知恵を手に入れたようだな)
「我の名を知っているのか。それで図書館の知恵とは何だ?」
無駄だとは思ったがナイアルラトホテップは惚けてみた。図書館に居るのだ、何かを探していることは隠しようがない。それが既に見つけたのかどうか、というところか。
(惚けても無駄だ、そこにそれ、手にしておるだろう。その書物は危険だ。そなたが持つべきものではない)
ノーデンスの言い様は不思議だった。危険とは何故だ?
こちらを封印することは確かに相手にとっては有用な知識であろう。それがこちらにとって危険?意味が解らない。
「危険とはどういう意味だ。この書物が我らにとって危険だと言うのか」
(危険と言うのは、お前たちにとって、という意味ではない。この宇宙にとって、という意味だ)
それなら、まあ理解できるかも知れない。但し、封印されたのなら、宇宙も崩壊しない。危険でも何でもないが逆に封印されなければ危険だと言うのか。
「今一意味が解らない。なぜ危険なのだ。詳しく教えろ」
ナイアルラトホテップはとりあえず話を出来るだけ伸ばして今この場におけるノーデンスに対しての対処方法を考えることにした。
 




