第1章 発端 第48話 始まりの始まり⑩
「漸く我の感覚を絞って共有することができるようになったぞ。」
「それは、ありがとうございます。」
「それにしても、お前たちの為に我の能力を下げなければならないとは、存外だらしないものだな。」
「我が主よ、申し訳ありません。ただそれであるが故、我が主は我々の上に君臨していただくに値するものと愚考いたします。」
「ナイアルラトホテップよ、それは正に愚考だな。ヨグ=ソトースともども精進するが良い。」
その時、ナイアルラトホテップには一抹の不安がよぎった。よもや、自分やヨグ=ソトースの力に合わせてアザトースの感覚を制限して共有することが可能となったのであれば自分たちよりも下位の者たちにはまた情報が多すぎて処理能力を超えるのではないか?
「我が主よ、シュブ=ニグラス、クトゥグア、クトゥルー、ツァトゥグアを御前に連れて参ってもよろしいでしょうか?」
「なんだ、懐かしい名前が出てきたな。一別以来我が眼前に一度も来たことが無い奴らだが、その者たちを呼んで如何する?」
「我が主の感覚を共有させてみたいのです。もしかすると我やヨグ=ソトースであれば可能なことが彼の者には可能ではないと、それはそれで困ってしまいますので。」
「なんだ、面倒なことだな。もしかすると我はまた自らの力に制限を掛けねばならんのか?」
「申し訳有りません。その可能性が否定できませんので試してみたいのです。いずれ先兵として敵と相対してもらわねばならない者たちです。我らと同じように相手を認識できるようにしておかないと不利になってしまいますので。」
「そなたたちが我の感覚を共有し、それをまた伝えればよいのではないか。」
「いいえ。我が主よ。その時間差が相手に利することが有り得ますので、やはり主の感覚をそのまま共有することに勝ることは無いのです。」
「わかった、とりあえず呼ぶが良い。」
ナイアルラトホテップとヨグ=ソトースはシュブ=ニグラス以下主だった者を一堂にアザトースの御前に集めた。今まで一堂に会したことは一度もなかったので、なかなか壮観な眺めだ。皆アザトースの前では大人しく控えている。何かとナイアルラトホテップに突っ掛かってくるクトゥルーでさえ身動き一つしないのだ。
「クトゥグアよ、少し熱いぞ、温度を下げないか。」
少し興奮気味のクトゥグアは自らの温度を上げてしまっていた。指摘されて直ぐに自らの温度下げる。ただ、ナイアルラトホテップに皆の前で指摘されたことを快くは思っていない様子だった。
「皆よく集まってくれた。御前ではあるが、そのままでよい。今しばらく待て。」
多少のざわつきはあるが全員静かに待っている。
「よし準備は整った、ナイアルラトホテップよ、始めるぞ。」
アザトースの声を初めて聴いた者も居た。他者を支配する声だ。
「わかりました、では、よろしくお願いします。」
ナイアルラトホテップがそういうとアザトースは自らの感覚を絞った状態で共有し始めた。
するとナイアルラトホテップとヨグ=ソトース以外が異様な動きを見せ始める。
「うぉお。」
「ぎゃあぁ。」
各々断末魔の叫びを発し出す。
「我が主、そこでお止めください。」
直ぐにナイアルラトホテップが止めに入る。やはり情報量が多すぎて処理が追いつかない。精神が破綻してしまう。
「やはり無理なようですね。我が主よ、さらに情報を絞っていただく必要があるようです。。」
「手間のかかることだ。仕方ない、なんとか抑えてみようか。」
アザトースは違和感の正体よりも、ナイアルラトホテップたちが困って居たり迷っていることが楽しくて仕方がないのだった。




