第1章 発端 第47話 始まりの始まり⑨
「我が主よ。」
「なんだ、どうしたというのだ。」
「我が主の感覚を共有していただきますと情報量が多すぎて我々の処理能力を超えてしまいます。」
「それでは相手を認識できないというのか。」
「膨大な情報の中で彼の者たちの情報のみを抜き出すのは至難の業かと。」
「我には容易いがな。」
万物の王たる所以だ。ナイアルラトホテップやヨグ=ソトースの力がいくら巨大だとしてもアザトースは別物なのだ。
「なんとか情報を絞る方法はございませんか。」
「不便なものよの。情報など多いに越したことはないであろうに。」
普通ならばそうであろう。自らの能力を超える情報過多は破滅を招きかねない。
「ではなんとかこの相手に絞った情報のみを取捨選択できるようにするとするか。」
アザトースはそう言うと思考の海に沈んでいった。
ナイアルラトホテップは事の次第をヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスに報告した。
「お前も存外使えぬものよな。」
「そういうな。あの感覚は異常だ。我が主の感覚を共有するなど正気の沙汰ではない。」
「それ程のものか。」
「それ程のものだな。流石は我が主、万物の王であらせられる。」
「そういうものか。」
「不満でもあるのか?」
「いや、確かにお前が処理できないのであれば我にも無理なのであろう。我とアザトースとの差が大きいことも判っておるつもりだ。ただ現実的に突き付けられてしまうと、まあ、面白いことではないな。」
「それは違うぞ。それほどの差があるからこそ、我が主なのだ。そうでなければ我が取って代わっておるわ。」
ヨグ=ソトースはまだ納得はしていない様子だったが、どうにも気に入らないから反旗を翻そうなどと考えて居る訳でも無かった。万物の王としてアザトースを認めているが少しでも近づきたいと思っているのだ。
「それで、その相手が認識できるようになれば戦うことになるのだな?」
「そりつもりではある。そのための準備の一環だからな。圧倒的な力で蹂躙するつもりなので、その際には働いてもらうぞ。」
「我は良いがクトゥルーやクトゥグアあたりはもう待ちきれないと暴発しそうだぞ。まさか我やお主に直接突っ掛かっては来ないとおもうが。」
「クトゥグアは何を考えているのか今一判らんが、クトゥルーはあり得るかも知れん。我のことを敵視しておるからな。」
「何かあったのか。」
「我が感知していることは何も。ただクトゥルーにはクトゥルーの言い分があるのかも知れん。戦いの最中、後ろから襲われる羽目になるやもな。」
「それは危険ではないか。」
「問題はない。気にするような事でもない。」
「お前がそう言うのであれば我にこの以上言うことはないがな。」
その時、アザトースから招集があった。ナイアルラトホテップとヨグ=ソトースは急いで御前へと向かうのだった。




