第1章 発端 第46話 始まりの始まり⑧
それからというもの、全次元に蔓延る見えない相手を炙り出す方法を考える日々が続くが、良案は浮かばない。全ての次元を一括で把握できるのがアザトースだけなので対処のし様がないのだ。
ナイアルラトホテップがコピーできるのは何かに対応する力のみであって、認識する能力はコピーできなかった。
索敵をアザトースだけに頼るのでは全く作戦の立てようもない。また、全ての次元に重なっている相手に干渉する能力はヨグ=ソトースにも無かった。ヨグ=ソトースは全ての次元に干渉できるが全ての次元に同時にというのは無理だったのだ。
「我が主。」
「なんだ、もう準備とやらがと整ったのか。」
「いえ、申し訳ありませんが我は勿論、ヨグ=ソトースと言えども全ての次元に同時に存在する相手を捕らえる術がございません。」
アザトースは表情としては変わらなかったが、なぜか嬉しそうにしていることがナイアルラトホテップにも伝わった。
「そうか。確かにそれでは対処が出来んな。少し待っておれ。」
そう言うとアザトースはまた暫らく玉座を留守にした。そして長い時間の後、戻って来た。
「うむ、判ったぞ。以前お前が言っていた書物が保存されている場所があっただろう。その場所に行ってみたのだ。」
そう言えば前にナイアルラトホテップも言ったことが有った。しかし最初に言った場所にはもう無かったのだがアザトースはその場所を発見したのだ。
「そこには今相手をしようとしている者たちのこともあったぞ。」
そこには宇宙の歴史の全てが書かれた書物も保存されていた。森羅万象、全てのことが記載されているのだ。
そのものたちは神と言う存在のようだ。ただ自ら発生できる存在ではなく、他の何物かの思いが集約されないと存在できない。つまりアザトースたちの様に自然発生したり、そこにただ元々存在していた訳ではなく他者によって二次的に生まれた存在なのだった。
「そのものたちを認識できるようになるのでしょうか。」
ナイアルラトホテップの関心はただその一点だった。そもそも認識できない敵は排除できないだろう。排除できたかどうかも判らないのだ。
「それは大丈夫だ。我が全ての次元を同時に認識する時の感覚をただお前たちに共有すれば良いだけだ。」
なるほど、その能力が無いのであれば感覚を共有すればいいのか。至極簡単な事だった。難しく考えすぎていたのだ。
「今、感覚を繋げてみるぞ。」
アザトースがそういうとナイアルラトホテップの意識の中が見たことも無い風景で溢れた。これがアザトースが普段認識しているものなのか。
それはナイアルラトホテップが感じているものとは結構違っている。一つ一つのものに対しての感じ方が違う。これは新鮮な感覚だった。ただ情報量がナイアルラトホテップが普段感じているよりもかなり多い。情報処理が追い付かない。アザトースが万物の王であることを再認識するナイアルラトホテップだった。




