第1章 発端 第44話 始まりの始まり⑥
ナイアルラトホテップはアザトースの玉座を訪れた実に数億年振りのことだ。相変わらず音楽が流れているが、その仕組みはナイアルラトホテップにも判らない。
「めずらしいことがあるものだな、ナイアルラトホテップよ。最早我の事は忘れ果てたのかと思っておったぞ。」
「我が主よ、申し訳ありません。この宇宙に違和感を感じまして、その正体を探っておりました。」
「違和感とな。それは一体何だったのか。」
いきなり核心を突かれてしまった。自らの無能をさらけ出すことになってしまうが仕方ない。
「それが我が主よ、全く判らないのです。それで我が主のお力をお借りしたく参った次第です。」
「ほほう、その方にも判らないことが有るのだな。それは少し面白い。よいだろう、詳細を話せ、我がその正体を掴んでやろう。」
アザトースは嬉しがっていた。やることが有る、それは本当にうれしいことなのだ。それがナイアルラトホテップが判らなかったことを探る、となると嬉しさは万倍にもなる。アザトースはナイアルラトホテップが嫌いだとかではないが、ナイアルラトホテップが困っているのを見るのが楽しくて仕方なかった。
「うむ、大体のことは判った。では、少し待っておれ。」
アザトースはそう言うと何かに集中し出した。その意識はナイアルラトホテップやヨグ=ソトースがやった事と同じ自らの意識を宇宙全土に広げる行為だった。
それは我もやりました。とナイアルラトホテップは思ったがアザトースにはアザトースの考えがあってのことだろう、と何も言わないことにした。
数万年が経ったころ、身じろぎ一つしなかったアザトースの意識が戻って来た。
「駄目だな、この方法では何も判らない。」
あっさりアザトースは諦めた。ナイアルラトホテップが行ったことと同じ結果になっただけだ。
「我が主、その方法は我もヨグ=ソトースと一緒にやってみましたが何一つ判らなかったのです。」
「そうか、ヨグ=ソトースもやったのだな。では別の次元も隈なくやったということでいいのか?」
「仰る通りです。全ての次元でヨグ=ソトースは何一つ発見できませんでした。」
「なるほどな。では今暫らく待っておれ。」
そういうとアザトースはまた身動きしなくなっってしまった。




