第1章 発端 第43話 始まりの始まり⑤
その後、いくら宇宙全体を回っても、その信仰の対象たる存在の手掛りは全く掴めなかった。
次元が違うとしてもヨグ=ソトースの探索に掛からない筈がない。多元宇宙は限りがないが、その全てをナイアルラトホテップは隅々まで途方もない時間を掛けて回っているのだ。ただ、その瞬間瞬間にも多元宇宙は増殖し続けているのではあるが。
「いったいお前たちは何をしているのだ。我をいつまでここに待たせるつもりだ。」
対応に苦慮しているので一旦集めた配下たちをそのままにしてしまっていた。クトゥルーやクトゥグアは勝手気ままに移動してはいるが一応それなりには元に戻ってきている。ツァトゥグアは一切動かない。動く気がないようだった。ハスターやツァール、ロイガー、イタカといった存在は、クトゥルーやクトゥグアとは違う理由で自由に飛び回っていた。飛び回ること自体が存在としての矜持だからだ。
「まあ待て。原因が判らないのでは対処のし様もあるまい。」
「ずっと待っておるわ。我に任せろ、そのよく判らない存在とやらをすぐに炙り出してくれるわ。」
そう言うクトゥルーにも何か妙案があるわけではなかった。ナイアルラトホテップが困っているのを揶揄いたいだけなのだ。
クトゥグアは特段何も主張はしないが、その炎の強さを見ると苛々としていることが見て取れる。
「やれるものならば、やってみるがいい。もしできたのであれば以後お前の配下になってやってもよい。」
ナイアルラトホテップはそこまで切羽詰まっている。一番苛々しているのはナイアルラトホテップがなのだ。アザトースに何一つ報告が出来ない、それが堪らなく嫌だった。自らの存在意義に関わることだからだ。
未確認の存在の目的も判らなかった。いったい何かしたいのだろうか。
また、接触の方法も判らなかった。主だった者はアザトースの玉座に近い空域に集めているが、その者たちには一切接触してこない。
雑多の者たちに接触する際には実体があるのではないかと思うのだが、その瞬間も捕えられないでいた。
精神波による支配?それならクトゥルーが得意とするるところだが、クトゥルーにしても何も掴めないでいる。
ナイアルラトホテップは主だった者と何度も協議し、むその理解を得て、ただ最も使いたくない方法を使う決断をした。万物の王であるアザトースの力を借りることにしたのだ。
ナイアルラトホテップとしては無能と罵られても仕方ないことだった。本来アザトースの耳にさえいれたくないことだった。ありとあらゆる手を使っても不可能だったことではあるが、我が主の手を煩わせなくてはいけなくなったことは心から申し訳なく思っていた。
ただ、一番の問題は、アザトースにすら解決できなかった場合だ。我が主を傷つけることになってしまう。それだけは避けたかった。
その全てを乗り越えてナイアルラトホテップはアザトースの玉座へと向かうのだった。




