序章 第38話 支配する者⑩
古のものたちには個別の名が無い。それはショゴスも同じだった。互いを別の個体とは認識しないで種族すべてで感覚を共有していた。ただし思考は各自別物だった。
その辺りで生じていた齟齬が原因でクトゥルーが支配した都市以外の古のものは自分たちの種族の大半がクトゥルーに支配されたことを知った。
ショゴスには今の所全ての感覚、思考が共有されていたので、指示は一体のショゴスに与えればそれでよかった。しかし別のショゴスの別の仕事をさせることがうまくいかなかった。一致団結して行動させるには最適だったのだが、様々な事をやらせるには向いていなかった。
クトゥルーに中央都市の整備をするよう指示を受けた古のものは、当然自分たちでは働かないのでショゴスを使役することになる。そこでショゴスを調整して個々に様々な支持を受けられるようにした。これがいずれショゴスが自我を持つことになってしまう要因になるのだった。
クトゥルーの支配を免れた少数の古のものは、どうしたらいいのか自分たちだけでは判断が付かなかった。種族全体をクトゥルーの支配から解放しよう、というような感情はない。ただ他者からの支配を肯んじ得ないという感情はある。クトゥルーの支配を免れた者たちは地下へ地下へとその存在を隠す方向へ進むのだった。
「クトゥルーよ、ようやく地球の支配を終えたと報告を受けたが本当か。」
「当り前だろう。先住者である古のものと呼ばれるものたちと地球土着のものも支配してある。この星は最早我の完全支配の星となった。」
「よかろう。では一度こちらに戻ってきてほしい。少し問題が生じつつあってな。」
「なんだ、そちらで解決できないので我に力を借りたいというのか。」
「事態はそれほど単純でも簡単でもない。こちらに来てから説明する。とりあえず戻るのだ。」
「まあ、いずれにしても我の力を頼りたいというのであれば、戻ってやらない訳にも行くまい。直ぐに戻るから待っておれ。」
クトゥルーは完全支配した(と思っている)地球を離れてナイアルラトホテップの待つ空域へと向かうのだった。




