序章 第28話 クトゥルー④
「我が主よ。」
「おお、ナイアルラトホテップ、久しいの。」
確かにナイアルラトホテップがアザトースの元を出てから数万年が過ぎていた。ヨグ=ソトースを追っていた間だけでも数万年を数えたのだ。
「御前にこのものを連れて参りました。」
「誰だ、そのものは。」
「はい。ヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスの間にできた一人目、クトゥルーと申します。」
「シュブ=ニグラスの力は感じることが出来る。相当な力を有しておるようだ。ナイアルラトホテップよ、お主もうかうとしておられんようではあるな。お前はクトゥルーと言うのか。顔をあげるがよい。」
クトゥルーはアザトースの元に進み出てから一度もその姿を見れなかった。ただその強大な、あまりにも強大なエネルギーを感じていた。自らが矮小に感じてしまう。よい、言われても顔(どこが顔なのかが自分でもよく判らなかったが)をあげられなかった。
「申し訳ありません、このものは我が主のお力に平伏すしかないようです。どうかお許しください。」
「それも仕方あるまい。それにしてもお主は普通に我に顔を向けている、というのは中々どうしてお主の力は我に拮抗している、ということかも知れんな。」
「滅相もございません。我の力など我が主の足元にも及びません。このものはとりあえず下がらせます、いずれまたヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスが生んだ者たちを連れてまいります。」
「我は時間を持ち余しておる。たまには我の存在を脅かすような輩を連れてまいれ。」
「我が主よ、そのような訳にはいきません。そのようなものは私が始末してしまいます。私が始末できる、ということは我が主には物足りない存在でしかない、ということになります。」
「そうか。では其方の手に余るようなものが見つかることを期待しておる。」
アザトースは本当に時間を持て余していたのだ。ナイアルラトホテップはクトゥルーを連れてアザトースの居所を離れた。クトゥルーは一言も発することが出来なかった。
本来クトゥルーも相当な力・エネルギー秘めていることは間違いない。我が主の存在を脅かす存在など見つかるはずもない、とナイアルラトホテップは思うのだった。
ただ一つだけ心当たりがないこともない。あの書物が大量にあった場所のことを思い出していた。次に訪れた時には、何もなくなっていたのだが、確実にあの知識をもった者たちが存在するのだ。その智慧は我が主を上回るかも知れない。不敬であったが、そう思ってしまうナイアルラトホテップだった。
 




