序章 第26話 クトゥルー②
「なぜ我を追う。お前は何者なのだ。」
必ず問われることだ。答えは一つ。
「我が名はナイアルラトホテップ。我が主アザトースを万物の王として知らしめる使命を帯びたもの。そしてお前にも我が主を万物の王として認めさせるために負って来たのだ。」
「詰らぬことで我を煩わせるでない。わが父ヨグ=ソトースと我が母シュブ=ニグラスは、そのことを認めておるのか。」
「当然。」
「なるほど、口だけは上手いのであろうな。だが、もしそうだとしても我が従う道理はない。なぜそのアザトースとやらを万物の王として認めなければならないのだ。それを我に認めさせてお前は何がしたいというのだ。」
当然の疑問だった。王と認めよ、と言うだけでそれ以上のことは何も言わないのだ。目的がそれだけ、ということは本来あり得なかった。普通は王と認めたうえで、こうしろ、ああしろ、と尾ひれがつくものだ。それもなく、ただ王と認めろ、というのは意味があるように思えない。ただの名誉欲とでも言うのか。
「特に何もありはしない。我が主を万物の王と心から認めればそれでよいのだ。」
やはり何もないという。クトゥルーには納得がいかなかった。ヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスが認めているのが確かであるのならば、それなりの存在ではあるのだろう。ナイアルラトホテップと名乗る目の前の存在も、確かに認めざるを得ない力を有しているようだ。だからそこ、万物の王と認める、ということに付随する何かがあるはずだ。もし本当に何もないのであれば無欲すぎるし、ただの馬鹿だとしか思えない。
「わかった、わかった、認めればよいのであろう。そのアザトースとやらを万物の王として認める、だからもうこれ以上付きまとわらないでくれ。」
クトゥルーは本心とは裏腹にその場逃れのためにそう言い放った。
「だめだ。」
「なぜだ。認めると言っているだろう。」
「そんなことで我が騙されるとでも思っているのか
。本心からでない言葉など不要、むしろ害でしかない。我はこの世界の全ての存在に我が主を万物の王として心底認めさせなければならないのだ。」
ナイアルラトホテップは全く融通の利かない存在だった。




