序章 第20話 シュブ=ニグラス③
「どうしても、我に従えと言うのじゃな。」
「どうしても、だ。」
ナイアルラトホテップは直ぐに居なくなっていた。ヨグ=ソトースに全てを任せて行ったのだ。それほど全幅の信頼をしているのか、とシュブ=ニグラスは思った。力の差は拮抗していると見ていたはずだ。実際の所、それ程の差はない。但し、得手不得手というものもある。ヨグ=ソトースに出来てシュブ=ニグラスに出来ないとこもあり、またその逆もあるのだ。
力の組み合わせによっては逃げることも可能か。少し光が見えて来た気がした。しかし、それはシュブ=ニグラスの勘違いだった。ナイアルラテホテップが任せて行ったのは当然任せて大丈夫だからだ。
アザトースが万物の王として君臨することを認めさせるためにヨグ=ソトースのが全てを支配する。その第一号となるのがシュブ=ニグラスだった。
「戦う、ということでいいのか?」
「仕方あるまい。そなたの力を見せてもらわないと我も従う気にはなれんでな。」
とういうと仕掛けたのはシュブ=ニグラスだった。と言っても、ただヨグ=ソトースに向かって突進するだけだった。質量兵器と言うべきか、自らの質量をもってヨグ=ソトースを粉砕しようというのだ。それをヨグ=ソトースは避けることをしなかった。
宇宙中に鳴り響くような轟音がした。宇宙全体が振動したと思えるほどだ。巨大な質量と質量、エネルギーとエネルギーの単純な衝突だった。副産物として巨大なブラックホールが数限りなく発生した。宇宙を覆うようなダークマターが広がっていった。
シュブ=ニグラスは驚愕した。ヨグ=ソトースはビクともしなかったのだ。確かに粉砕できるとも思ってはいなかった。だが全く微動だにしないとも思わなかった。
シュブ=ニグラスは逃げた。追いつかれた。ヨグ=ソトースは全ての次元を渡ることが出来るのだ。どこにも逃げ場所がなかった。
また突進した。ヨグ=ソトースは逃げもしなければ弾き出すこともしない。ただ受け止めるのだ。
逃げる。追いつかれる。突進する。受け止められる。それが永遠に繰り返される。シュブ=ニグラスはそれを心地よいと感じ始めていた。




