序章 第18話 シュブ=ニグラス
「お前、その姿は何だ?」
「何だ、とは失礼な。そなたこそ何者だ。」
ナイアルラトホテップがアザトースを万物の王として知らしめるための旅が続いていたのだが、ある時同類と言っていいのか判断が付かない者を見つけた。それは何かよく判らないものだった。
黒い樹木のようなもの。枝なのか触手なのかは区別が付かない。黒山羊と呼ぶには遠すぎるが他に近しいものもない。
「そなたの姿も相当なものだぞ。」
確かにナイアルラトホテップの姿も定形ではない。そして今は人型を取っていた。その形が一番エネルギ―の消費が少ないのだ。本来の混沌とした形は、無尽蔵にエネルギーを消費してしまう。小さい人型に収めている方が効率がよかった。その人型の姿を相当なものだ、と表現されたのだ。
「この形が便利なのでな。」
「まあ、よいわ。それで何用じゃ。」
「我が主の元に集うのだ。そして我が主を万物の王と崇めるのだ。」
「なぜ我がそのようなことに関わらなければならないのじゃ。」
「それが我が主より我に与えられた使命だからだ。」
「使命のぉ。そなたはそれでよいのか?それがそなたの望んだことなのか?」
「そうだ。それは我が自ら望んだことだ。」
「ならば何も言うまい。ただ我に強制するでない。我は誰にも指図されない。誰の言うことも聞く気がない。放っておいてほしい。」
多分、我々のような存在は皆そうなのだろう、とナイアルラトホテップは思う。唯我独尊、自らがただ一人の存在であった時間が長いと、他の存在や他の存在からの干渉は煩わしいことでしかない。ナイアルラトホテップですらアザトースと出会って居なかったらそうだっただろう。
しかし、ナイアルラトホテップはアザトースと出会ってしまった。それがこの者との差だ。
「そうもいかないのだ。お前、名は何と言う?」
「名乗る必要があるのか?そなたの名も知らんぞ。」
「そういえば名乗っていなかったな、我の名はナイアルラトホテップ、我が主アザトースの忠実なる僕だ。」
「アザトースとな。その名はなぜか気にかかる名ではある。そなたはナイアルラトホテップと申すのか。我の名はシュブ=ニグラスと言う。らしい。」
「らしい?」
「他に誰も居なかったので、誰も我をそう呼ばなかったのでな。ただ自らがシュブ=ニグラスと知ってはおったが。」
「我らは皆そうなんだろう。我も同じだったからな。だが我が主と出会って、それは変わった。我の使命は我が主にお仕えすることだと悟ったのだ。」
「そう言うものかの。いずれにしても我のことは放っておいてくれんか。そなたたちに関わる気はないのでな。」
「そうもいかない、と言っただろう。一緒に来てもらうぞ。」
ナイアルラトホテップは強制的にシュブ=ニグラスをヨグ=ソトースの元に運ぶのだった。




