序章 第16話 ヨグ=ソトース⑦
「我が万物の王である。」
そういったことを直接アザトースは言わない。言わなくても感じられる、それがアザトースがいうところの万物の王としての資質だった。全てがその前に平伏すのだ。自らが意識する必要もない。ただ自然に平伏してしまうのだ。
ヨグ=ソトースも感じていた。これこそが万物の王だ。抗うことは出来ない。抗う必要もない。逆らおうとは思わない。逆らう術はない。自分と同等以上の力を有しているナイアルラトホテップが「我が主」として旗下についているのも頷ける。
力の差は圧倒的だった。但し本当は僅差だった。圧倒的な差を感じてしまった、というのが本当のところだ。差を感じてしまった方の負けである。そして、その負けを容易に受け入れることができる、ということが大切だった。だからこそ反抗しようと思わないのだ。
「我が王よ。我が名はヨグ=ソトース、ナイアルラトホテップに促され馳せ参じました。どうか旗下にお加えください。そして我にも何なりとお命じください。あなたの手足になりましょう。」
「ヨグ=ソトースとやら。お主を我の旗下に加えてやろう。ナイアルラテホテップによると我に近い力を有しておるようだな。」
「滅相もございません。我が王よ、我が王とお呼びすることをお許しください。我が王よ、我の力など王の足元にも及びませんが王の御為にできることもあろうと愚考いたします。どうか、我を自由にお使いくださいませ。」
ヨグ=ソトースは自然にその言葉を発していた。何の衒いもなかった。ナイアルラトホテップに感謝すらしていた。自ら以外の存在に気付かせてくれたこと、何よりアザトースの元に連れてきてくれたことを。
ヨグ=ソトースはアザトースに仕えることに自らの存在意義を見出すことが出来そうだった。




