序章 第10話 ヨグ=ソトース①
「なぜ我がお前に従わなければならない。」
当然の問いであっただろう。
その存在の名はヨグ=ソトースと言う。
それまで、自らの周りには自分以外の存在が一切なかったからだ。自らが宇宙で唯一の存在であった。
また、その次元だけで唯一ではなく、全ての次元において唯一の存在だったのだ。
他者の元に平伏すなど在りうるべきことではない。
自らの存在を認識した時期には、すでに他者とは十分以上に離れており、他者を認識することもなく、その必要もなかった。
「我が主の元に集うのだ。それがお前たちの存在意義でもある。」
「もしそうだとしても、なぜお前の指示に従わなければならない。お前の主が直接我をその軍門に下だしに来ればよかろう。」
「我が主は、我に自らを宇宙の王として知らしめよ、と下知されたのだ。自らがお出ましになることなどない。」
「では、我もお前に従うことなどないと心得よ。」
会話ではなく、思念での意思の確認であるため、虚偽や装飾はない。その者の本心からの言葉であった。
「では、どうしても我が主に従う気はないと言うのか。」
「いや、それはお前が言う主に会ってみなければ何とも言えない、と言っておるのだ。ただ、お前に従う気はないとな。」
その存在は自らを高く評価はしていたが、自分以上の存在が在ることを否定している訳ではない。まあ、そんなこともあるか、という程度ではあったが。そもそも自ら以外の存在に初めて出会ったのだ。それでいきなり従えと言われても自尊心が許さない。
従うにしてもそれなりの理由を求めているのだ。なぜ、そういった思考になるのか、その理由は自分でも判らなかったが。




