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いつもの朝?

 ニコは俺と目が合うと、ふわりと笑った。かわいい。


 ―いつまでも、こんなところに居ちゃいけねえよなあ…。


 ニコはこの【にゃんにゃんカンパニー】の事務所ビルの前で、ある日突然倒れていた。ニコを見つけたのは奇しくも俺で、柄にもなく慌てたのを覚えている。


「おおおおお女の子が倒れとる!!!!!」

「親分!落ち着いて!」

「とりあえず中へ!」

「医者を呼べ!」



 とにかく大騒ぎだった。野郎どもで恐る恐る事務所のソファへ運び、医者が来るのをイライラしながら待った。


「遅え!」

「これでも超特急だよ!ああもう!ポケットが!ない!」

「白衣が表裏逆なんだよ!」

「畜生!」


 連れて来られた医者も相当気が立っており、白衣を脱ぐと床にバシンと叩きつけた。ぎゃあぎゃあと騒がしいうちの連中に「黙りな!」と一喝すると、医者は女の子の状態を調べ始めた。


 野郎どもと共に固唾を飲んで見守っていると、女の子は薄く目を開いた。そして。


「こ、ここは…?え!?猫さん!?うっ!頭が…!」

「落ち着いて。ここはメルヒエン。私は医者だ。」

「ニワトリさんが…お医者さん…?!どういうことなの…?」


 混乱し、不思議なことを口走る彼女に、俺は周囲の野郎共と顔を見合わせた。医者はニワトリって決まってるのに、そんなことも分からないのだろうか。


 ―記憶喪失。


 幸い、身体に異変は見られなかった。医者が言うには、きっかけがあれば記憶は元に戻るかもしれないとの話だ。どこから来たのかも分からない、自分が何者なのかも分からない。それが突然現れた女の子、ニコだった。


「頭をガツンとやったらショックで戻るかもな。一応患者だ。俺が預かろうか」


 一応医者とは思えない危険な発言に、俺たちは一斉に首を横に振った。不安そうにしている女の子に、俺がつい「しばらくうちにいな」と情けをかけてしまった結果、現在に至る。


 ちなみに、ニコというのは俺が付けた名前だ。耳の裏に25という数字に見える痣があることから、適当に決めた。


 あれからしばらく経ったが、彼女が何かを思い出した様子は無く、俺たちも何かと世話を焼いてしまった。彼女可愛さで一階をカフェにリフォームしてしまった程である。マフィアの事務所なんて、一般人が長居していいところじゃないと思いつつ、居場所を与えてしまった。


 ふう、と自然に漏れたため息に気が付いたニコは心配そうに俺を見た。


「ん?いやあな、そろそろお前の今後を考えてやらねえとなと思ったところだ。はは、は…」


 誤魔化すように笑ってみたものの、ニコの表情は一気にサッと青ざめた。ぶるぶると小刻みに震えながら呆然と俺を見ている。瞬きすらしない。


「あ、あの、ニコちゃん…?」


 彼女の手元で注ぎ中のコーヒーは止まることなくカップに流れ込んでゆく。


「親分さん!!」

「はい!」

「どうか!私を!捨てないで!ここから追い出さないで!」

「あ、いや…」

「何でもします!至らないことがあったら直しますからおっしゃってください!」

「それよりも、コーヒー…」

「お役に立ちますから!どうか!!親分さん!」

「分かったから!コーヒー零れてるよ!!!!!」


 ドバアと流れる涙とコーヒーに、俺は敗北したのだった。



 めそめそと泣くニコを何とかして宥めている間、シオンは俺を仇のように睨んでいた。思えばこのボウズも、ある日突然現れた。経緯は知らんが、いつからか郵便屋さんとしてヤギ共にこき使われている。


 職員としては非常に成績がいいらしく、郵便当局は何があってもこいつを手放さない意向だと耳にした。俺としては、こいつの永年雇用よりも、お手紙を食べちゃう他の職員たちをどうにかすることが最重要課題だと思っているが、人の仕事に口を出す程野暮ではない。



 そんなことに思いを馳せていると、突然嵐のようなエンジンを吹かす音が鳴り響いた。次いでカフェの窓ガラスがバリンバリンと盛大に割れる。


「伏せろ!!!」


 俺は周りに一喝するとカウンターを飛び越え、抱え込むようにニコに被さった。


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