リアムとアイザック様と
放課後になったので、私たちは連れ立ってアイザック様との待ち合わせ場所へ向かう。
さきほどのこともあるし、隣にリアムがいるってだけで安心してしまう。
甘えすぎてるけど。
リアムがいるだけですごく心強い。
「よぅ」
アイザック様は、軽快に声をかけて下さる。
彼はすでに待ってくださっていた。
「また二人きりかと思ったらリアムもいるのか」
隣のクラスだけど、リアムのことをご存知だったよう。
「お忙しいところありがとうございます」
私は深々と、お礼を言う。
「アーサーとライアンのことだよね。何がききたいの?」
アイザック様はベンチに座り、私たちを見上げる。
アイザック様は、まさに今時の学生さんという感じのお方である。
ところどころに魔法石をあしらったアクセサリーをつけていらっしゃるのだが、ポイントが効いていてオシャレだと唸らされる。
ブルーが少し入った銀髪で、目は緑色で軽やかな印象だ。
洗練された雰囲気もあり、これはモテるだろうな、と思う。
だが、隣にもっとドキドキしてしまう素敵な人が立っているので、ドキドキせずに済んでいる。
いや、よく考えたら素敵なリアムともてそうなアイザック様と一緒なんて、女子生徒たちに妬まれそうだ。
「はい。私、お二人のどちらかと婚約する話をされておりまして」
私は口を開き、そう言った。
アイザック様はさほど驚くこともなく、
「それで?」とおっしゃった。
「何かの間違いかと思うのですが、万が一のために二人のことを知りたいと思いました」
私はアイザック様の目を見て話す。
「双子のどちらかが、自分と相応しいかを選ぶためか?」
アイザック様が、いつもの明るい感じとは違い、真面目な顔をして聞く。
「いえ、私は選ぶつもりはありません。お断りするため、調べたいと思っています」
本当はもっと本音を言わないで聞くってこともできたかもしれないけど、このアイザック様をみていたら、嘘はつきたくないな、と思ったのだった。
「え? セレーナ嬢にはとってもいい話だと思うんだけど」
そんなふうに私が思ってるとは思ってなかったらしい。
ここにきて初めてびっくりされる。
リアムの方をみたらリアムも驚いていた。
とはいえ、リアムはずっと何も言わずにそばにいてくれている。
これは私自身のことだから、口を挟まずにいてくれてるんだ。
「お断りする理由は内緒です! ただの私のわがままです」
私リアムが好きなんだから、リアムの前で好きな人がいるなんて言えないよね。
バレちゃって気まずくなっちゃったら悲しすぎる。
「そうなんだ。じゃあ俺がアプローチしてもいいのかな?」
なんてアイザック様がおっしゃるので、笑ってしまう。
「面白いことおっしゃいますね。でも嬉しいです。ありがとうございます」
私はつい、アルバイトの薬局で、お客様たちと同じあしらい方をしてしまった。
男性のお客様たちは挨拶のように可愛いねって言ってくださる方が多かった。
思ってもいないのに優しくお世辞を言って私を喜ばせて下さるので、本当にお優しいと思う。
リアムは何故かアイザック様を睨んでおり、
アイザック様は若干残念そうな顔をしてらっしゃる。
せっかくわざわざ面白いことをおっしゃってくださったのだから、もっと喜んだふりでもした方が良かったかしら?
「あの、そろそろお二人のこと、教えてくれませんか?」
お世辞はいいので早く教えてほしい。
つい急かしてしまう。
アイザック様はようやく、教えてくださった。
お二人には、私以外にそもそも婚約者がいらっしゃるようなのだ。
その方は我が国のプリンセスであらせられる、ヴィオレット第二王女だった。
お二人のどちらかと彼女とご婚約を交わすお話になっているそうで、ご結婚後は公爵家として新たな領地を与えられることが決まっているのだそうだ。
つまり、残りのもう一人と私が婚約するというお話なのではないかと思うのだが、王女様が先に選ぶならわかるけど、
私が2人を選ぶ感じになっていたのはどういうことなんだろうか?
それに王女様とご結婚なさる方がいいのでは?
やはり何か裏がありそうだ。
そのあと、お二人のことも少しお話しくださった。
アーサーはお兄さんでいつもライアンを見守っており、ライアンはアーサーを兄としてとても慕っているらしい。
確かに会いに来てくださった時もそんな感じだったかもしれない。
「少しは何かわかったかな?」
アイザック様が言う。
「むしろわけがわからなくなってしまいました。困りました」
と私は苦笑する。
「とりあえず今週末、お話にいかないといけないみたいなので、行ってきいてみます。向こうからお断りいただけるとありがたいのですが。アイザック様、教えてくださって、ありがとうございました」
本当に急に話しかけたのに、親切に教えてくださって、ありがたい。
私はもう帰りたくなったので、さっさと終わらせようとしたら、
「それで、朝言ったお願いの話なんだけど」
唐突に、アイザック様が切り出された。
「あ、そうでした。私のできることでしたらなん……」
完全にその事を忘れていたので、慌てて答えようとすると、リアムに口を塞がれる。
「セレーナ。女の子が、男の子に軽々しくそんなこと言ったらダメだよ」
とリアムは私に優しく言ってから、アイザック様に向かって、
「アーサーとライアンには伝えてもらって構わない。きっと何かしら調べてくると思ってるだろうし。だから、このお願いは無しだ」
と勝手に言った。
「まぁ時間作って話してあげたのにいいじゃないか。俺、セレーナ嬢と、デートしたいな」
アイザック様はそうおっしゃった。
「ふふっアイザック様って、冗談がお得意なのですね。面白い方ですね。お言葉だけ、ありがたく受け取らせていただきます」
貴族の方が平民とデートなんてするわけないので、優しい冗談なのだろう。
初めからお願いなんてするつもりはなかったのかも?
お優しすぎて、笑ってしまった。
アイザック様はまた残念そうな顔をしている。
何か私、おかしいこと言ってしまったのかな?
リアムを見ると、なにか嬉しそうにこっちをみていた。
リアムが嬉しそうだと何だか嬉しい。
「アイザック様、本当にありがとうございました」
そうお礼を言って、私はようやく寮に帰れることになった。
その帰り、リアムが、
「これから絶対俺以外の男になんでもするなんて言わないこと!」
と言ってきた。
私の決まりごとがまたひとつ増えてしまった。
ふと思う。
「ねぇ、リアムにならなんでもするって言っていいの?私、リアムには本当に感謝してるの。私ができることなら、何でもしたいわ。いつも本当にありがとう」
リアムになら私本当になんでもしたい。
少し前を歩いていたリアムが真っ赤な顔して振り返った。
そして、言う。
「じゃあお願いがあるんだけど、俺と一緒にデートして」
振り返ったリアムが本当に格好良くて。
リアムも、先程のアイザック様のように冗談だったのかもしれないけど……。
「もちろん!」とずうずうしく答えてしまった私がいたのだった。
セレーナ、リアムとデートです!