怒ったリアム、初めてみた
怒涛のように双子が帰って、私は、ひとしきりボーっとしてしまう。
双子がアルバートン伯爵の後ろにいたときは、伯爵だけがお話しになって、特に何かお二人が話すなんてことなかったので、失礼な話だが、特に印象がなかったのだ。
とりあえず釣書は見ないといけないみたいだ。
平民の私などを二人が奪い合う、なんて小説じゃあるまいし、あり得ない。
それにあの双子は特に私のことが好きと言う感じは見受けられなかったし、何か裏がありそうだと感じてしまう。
二人の釣書を並べてみる。
『アーサー・アルバートン』
黒髪青目のお兄さんの方
『ライアン・アルバートン』
茶髪緑目の弟の方
双子だからなのか?
あとはほぼ、一緒だった。
見ても特に変なところはない。
釣書のみの情報で、何か答えがでるわけもなく。
それより、リアムのまとめノートを終わらせないと。
再度ノートを広げて、必死に集中する。
特待生なので後がないと思うとすごく集中できる。
4分の3くらい終わらせたところで、リアムが来た。
「どう? 終わった?」
「あともう少しなのだけど、まだなの」
「珍しいね? これくらいならもう終わってると思ったんだけど。
紅茶淹れてあげるから残りも頑張れ」
リアムが勝手知ったるなんとやらで、テキパキと、紅茶の準備をしてくれる。
「ありがとう」と言ったのか言ってないのか、私は必死に残りを終えようとペンを走らせた。
「終わったわー」
のびをしたら、
「お疲れ様。紅茶どうぞ」
リアムが優しい顔で笑い、私が座ると椅子を引いてくれる。
「こんなことまでしてもらえて、私お姫様みたいね。ありがとうリアム」
なんだか嬉しい。
だって私リアムが好きなんだ。
甘えないようにしようと思っても、結局甘えている。
リアムに迷惑かけたくないのに、優しくされると嬉しいなんて。
自分の心がおかしくなったみたいだった。
リアムの紅茶を一口飲むと、その美味しさに疲れが吹き飛ぶ気がする。
「リアム、本当に紅茶を淹れることの天才ね。私がやってもこの味はでないわ」
まろやかな舌触りで、本当に幸せな気持ちになる。
そんな紅茶なのだ。
「で、俺に言わないといけないことないかな? セレーナ」
優しいけど何か怖い顔で、リアムが言う。
「お礼は言ったと思うのだけど。なにかしら?」
私は首を傾げる。
「誰かきたよね」
リアムの言葉に、ハっと、あの双子を思い出す。
「リアムのノートで夢中になって、すっかり忘れていたわ。例のアルバートン伯爵の双子が会いに来てくれたの」
「セレーナ。俺以外の男の人は部屋に入れてはいけないと言わなかったかな?」
優しい目だがリアムが怒ってる気がする。
「ごめんなさい……」
私はリアムに心配をかけっぱなしだ。
私がしっかりしないから、きっと心配になるんだろう。
リアムが心配しすぎてくれてるのが、おもしろくてフフっと笑ってしまう。
優しい同級生は、本当に過保護だわ。
「で、双子はなんて? なにもされてない?」
リアムは、私の言葉をスルーして、そう聞いた。
「何もされてない……」
と言ったところで、アーサーに、腕を掴まれたり、肩を触られて無理やりベッドに座らされたのを思い出してしまう。
つい私は体を守るように手を自分の腕に回した。
リアムは、変になった私の異変に気づかないわけなかった。
「されたんだな」
「いえ、全然なにもされてないのよ。大したことないの。私がびっくりしただけなの」
あれくらいで何かをしたなんて言いがかりをつけられたら、アーサーもびっくりだろう。
でも、思いだしたら少し震えてしまった。
私本当にだめだ、リアムに心配かけたくないのに。
気がついたらリアムに抱きかかえられて、ベッドに座らされていた。
アーサーと同じようなことをされたのに、無理やりで強引な感じとは全然違って、リアムのそれは安心しかなかった。
いや、大好きなリアムになら強引にされてもむしろ喜んでしまいそうな自分が怖いくらいだが。
「セレーナ。全部話して。怖がってるのわかるよ」
リアムもベッドに一緒に座り、優しく抱きしめてくれ、背中をトントンと優しく叩いてくれる。
嫌がられるだろうか、私も、リアムの体に腕を回して、もっと全身にリアムの体温を感じたいと思ってしまう。
その衝動は、どうにか我慢した。
我慢できた自分を、褒めたいと思う。
そして私は、ポツリポツリと、さっきあったことを話した。
リアムが心配しないように極力第三者目線で話せたとは思う。
「ね、本当に私だめよね、大したことされてないのに怖がっちゃって、大袈裟すぎるわね。恥ずかしい」
そう言ってリアムの顔を見る。
リアムの顔は。
私が初めてみるくらい怒りで震えていた。
「え、どうしたの? リアム?」
「セレーナ! なに言ってるんだ。ダメじゃないよ。女の子にそんなことするやつが、悪いだろう。しかも、男二人で無理やりセレーナの部屋にはいりこむなんてありえない。今度誰かにノックされたら、絶対出たらダメだからね。俺以外は部屋に絶対入れないで」
ちなみにリアムは、気がついたらずっと寝てしまう私なので、万が一のために、と私の部屋の合鍵を持ってくれている。
持っていてもらえるだけで安心する私なのだ。
そして、リアムがさらに私を強くだきしめてくれる。
私のこと心配してくれる人がいて、私のために怒ってくれる人がいるなんて。
幸福感に包まれる。
リアムが私のことをすきになってもいいような身分だったらなぁ。
隣国の騎士様に見合うような、私が貴族の御令嬢であれば。
村のみんなは大好きだし、平民だからといって、嫌だと思ったことはない。
だけど、そう思うとすこし苦い気持ちになる。
「リアム、ありがとう。あの双子私に好意を持ってるようには感じなかったから、何か裏がありそうなのよね。今週末行ってきて、とりあえずどちらも素敵で選べませんっていって適当に引き伸ばしてみるわ。むこうからやっぱり間違いでした、なんて言われるのがオチだと思うけどね」
抱きしめられまま、私はリアムの胸の中でそう答えた。
なので、リアムが少し悲しそうな顔をして、
「絶対セレーナに近づかせないから」
とつぶやいたことは私は気づかなかった。
双子の思惑はなんでしょうか。




