みんなに優しい同級生
……ぐぅ〜
一際大きくお腹が鳴る。
とても恥ずかしい。
用意していただいた夕食を食べようと思ったところで、釣書の話になってしまったので、食べれなかったのだ。
リアムが吹き出して、
「ごめん、お腹すいたよね。はい、アーン」
とお肉をフォークに刺して口に近づけてくれる。
アーン? そんな恋人みたいなこと……なんて狼狽えてしまい、なんて答えたら良いのかわからずに真っ赤になってしまう。
「はい! 口開けて?」
リアムは、照れてる私など気にもせず、淡々と言ってくるので、
「……はい」
と言って受けいれた。
おいしいお肉が、口の中で広がっていく。
分厚いお肉がホロホロに煮込まれており、これはサラさんの得意料理だ。
なんて料理? って聞いたら、そんなの名前なんてないわよ、っていうので、みんなホロホロ肉って呼んでいる。
でも、そんな美味しいホロホロ肉が少し苦く感じてしまったのは、そう。
……リアムが好きだからだ。
それに気づいたのはいつだっただろうか。
いつも優しいリアムに、私はどんどん惹かれている。
気がついたら、どうにもこうにも、引けないくらい大好きになってしまっていた。
私が何か困っていたら、いつもリアムが隣にいて、助けてくれるんだ。
リアムには釣り合わない私なのに、助けてもらってるだけでも嬉しいというのに。
今も、アーンなんて恋人みたいと思ってすごくドキドキしたのに、リアムは淡々としていて。
きっと私のことなんて、『そういう風』には思っていないんだと突きつけられる気がする。
だから、少し寂しくなったりするんだ。
こんなに近くにいるのに。
こんなに良くしてもらってるのに。
きっとリアムは、私みたいな可哀想な子を見捨てられない優しい人なだけだ。
恋人というより妹、いや妹だっておこがましいが、庇護の対象みたいな存在なのだろうな、と思ってしまう。
誰にも優しいリアムは、私だけに優しいわけじゃない。
側にいてくれるだけで、ありがたいじゃないか、そう毎日言い聞かせている。
男性でここまで親しくしてるのは、リアムだけだ。
だが、リアムは男女関係なく、皆に慕われてて。
みんなに優しいリアムだからこそ、こんな端っこにいる私にも優しくしてくれるだけなんだ。
でも、そうわかっていても、日を追うごとに好きが止まらなくなってしまう。
リアムはずっといいタイミングでご飯を口に放り込んでくれて、あっという間に食べ終わってしまった。
あぁ、ちょっとボーっとしてしまった。
せっかくのリアムのアーンをもっと堪能したらよかったかも。
リアムは、
「よし、ちゃんと食べたね。セレーナは痩せてるんだからもっと食べるんだよ」
ニコニコして、私の頭を撫でてくれる。
幸せなのか、寂しいのか、先程の混乱か? 訳がわからない気持ちになって、目からブワっと涙がでてしまう。
「あ、ごめんなさい……」
と言ってハンカチで拭いたが、どうにも止まらなかった。
今まで急に涙が出てくるなんてことなかったけど。
もしかしたら私、例のアルバートン伯爵の件で、すごく疲れてしまっているのかな。
涙がようやく止まって、ふとリアムを見ると、初めて見る、不思議な顔をしていた。
怒ってるような? いや困ってるのかな?
「今日は色々あったから混乱してるのかも。リアムに頭撫でてもらって、ホッとしたら、涙が出ちゃったみたい。急に泣いてごめんなさい」
きっと優しいから心配させてしまうかも。
でも、私、本当は心配されるのも嬉しいんだ。
助けてって困った顔して、リアムが、助けに来てくれるのを望んでるのかも。
自分のことながら、なかなか悪いやつだと思う。
ごめんね、リアム。
「そうだよな……。セレーナはあの双子のこともしらないんだよな?混乱するよな……」
まるで自分に言い聞かせるようにそう言って、リアムが私を抱きしめて、また頭を撫でてくれた。
「よしよし、セレーナはとってもえらいよ。毎日頑張ってるよ。今日は突然びっくりするようなことを言われて、辛かったね」
大好きなリアムの優しい声でそんなことを言われながら、抱きしめられ、頭を撫でられてる。
「リアムありがとう。そんな優しくされたら、また泣いちゃう……」
嬉しさとびっくりと、あとは今日の混乱で、せっかくの止まった涙も、また溢れてしまったのだった。
リアムは私が泣いているその間中、ずっと抱きしめて頭を撫でてくれている。
私は今がずっと続けばいいのに、って少し思った。
私がようやく落ち着いたので、
「そろそろ部屋に帰るね。ランチボックス食堂に返しておくから、もう遅いしセレーナは部屋を出ないように」
とリアムは立ち上がった。
この寮は部屋数が少ないのもあるのか、部屋の中にはシャワールームもお手洗いもあって、このまま全て部屋の中で完結する。
素敵な特待生のお姉様が、夜寮をうろうろしていて危ないことになったんだよ、ってリアムに教えられてから、あまり夜にはウロウロしないようにしている。
まぁ、素敵なお姉様はともかく、私ではそんな危ないことになりようがないけど。
王立らしく、見た目は粗末なようだが、実は住んでみると、機能的で、居心地のいい寮だ。
こんなところに特待生で無料で住まわせていただくことができて、本当に感謝している。
「あ、コレ少し借りていくね」
リアムが私が持たされた釣書を持っていこうとする。
「えっリアムの頼みならききたいけど、個人情報だからさすがにそれは良くないと思う。これは貸せないわ。ごめんね」
本当はこんな大事なもの、持っていたくない。
さすがにあんな状況で、結構ですなんて言える訳ないんだけど、突っ返したらよかったよね。
まぁ、きっと何かの間違いだから大丈夫なはずだ。
そう言い聞かせる。
明日間違えちゃった、って連絡が来るに違いない。
こんな面倒なことはごめんだ。
「貴族の釣書はいろんなところに送るから、もうすでに公開してるようなものだけで、大事な個人情報はのせないようになってるんだよ」
そんなわかないと思うが、知識のなさが、そんなものかな?と思わせる。
「貴族のことはよくわからないけど、そうなの? だったら早く返してね。きっと何かの間違いだから、明日にも早く返せって言われちゃうと思う」
「セレーナ、何言ってるの? まぁいいけど。ちょっと貸してね。悪いようにはしないしないからね」
そう言ってリアムは颯爽と帰っていった。
リアムの後ろ姿も格好よくてドアを開けて見送っていたら、キッと後ろを振り向き、
「早くドア閉めて!施錠もして!」
と怒られたので、ドアを閉めた。
しかし、なんでリアムが男性の釣書なんているのかな?
もしかして、どなたかのお見合いを、考えているのかしら?
アルバートン伯爵家の素敵な釣書を見本にして、自分の釣書でも作成しようと思っているのかしら?
もしかして、リアムには意中の方が!
涙腺がバカになっていて、またじわじわ涙が出てくる。
……自分でも泣いてばっかりで馬鹿じゃないのと思うけど、今は泣かせて。
もう少しだけ泣いたら、強くなるから。
リアムを離してあげるからね。
次は双子をお話にかきたいです。