私と一緒にいてくれていたのは、それでだったのか。
私は、リアムに連れられて、ある部屋に連れていかれる。
「こっちだ」
ドアを開くと、そこは、とても居心地の良さそうな、一目見てみんなに大事にされているとわかる、女の子のお部屋だった。
その奥の大きなベッドの真ん中に、私と同世代だと思しき女の子が伏せっていた。
顔色はあまりに悪く、土気色で、死相が出ていた。
フカフカな豪華すぎるベッドに似つかわしくないような、シワシワで、ガリガリの腕が投げ出されている。
目を背けてしまいたいくらい、あまりに痛々しい、そう思う。
リアムが乞うように、言う。
「ニコールを治療して欲しいんだ」
「私がそんなこと」
そりゃ、私が助けることが出来るのなら、やりたいけど。
できる自信がない。
何かの間違いではないのかと不安になる。
「もう少し、セレーナがその力に慣れるまで、待ちたかった。でも、もう症状が進んでしまって、どうしようもないんだ」
私はニコールの、その痛々しい手を見る。
少しも生命力が感じられなかった。
勝手に涙が流れる。
この子のことは私はしらないけど、これほどまでに至るまで、どれほど痛かっただろう、どれほど辛かっただろう。
ずっと耐えてきたことだけは、わかった。
これほどまで痛めつけられる程、彼女が、何か悪い事でもしたはずがないのに。
私は何故だか、もうすぐ消えゆく命だ……そう頭に浮かんだ。
彼女の頬には沢山の涙の跡があり、ほんの先程まで、強い痛みに苦しんでいたことを教えてくれる。
「ニコールは、不治の病にかかっているんだ。もう聖女の力でないと、治せないって言われて……」
いつも余裕な表情しか私には見せた事ないリアムが、私に負けず劣らず、泣いていた。
「聖女の力を持つものの片鱗を、探してたんだ」
リアムはそう言い、私にピンク色をした宝石を手渡した。
私の手のひらにのせられたその宝石は、ピンク色だったとは思えないくらい真っ白に光っている。
「不思議な宝石ね」
その光は、あまりに綺麗で、つい見惚れてしまう。
「素質がないと、光らないんだ」
リアムがまた宝石を私の手から取り、持つと先程のピンク色に戻った。
「それで君を見つけて、呼び寄せて、ずっと近くにいた」
リアムが流れる涙を拭くこともせず、私をまっすぐに、見た。
そうだったのね。だから一緒にいてくれたのね。
こんな素敵な人が私といた理由、やっとわかった。
全ては彼女のためだったのね。
「わかりました。私ができることなら、させてください」
覚悟を決めて、私は微笑む。
私は正直、とても落ち込んでいる。
リアムが私のそばにいてくれた理由。
恋愛でなくても、私のこと見捨てられなかっただけだとしても、少しは好いていてくれてると思っていた。
自惚れていたのかもしれない。
でも、そうだったのね。
全ては、ニコール様のためだったのね。
リアムがそこまでして助けたかったのだから、私もニコール様を助けたい、そう思った。
「助けるのはどうすればいいのかしら?」
すると、私の前に、とても品のいい、素敵なお婆ちゃんが呼ばれる。
「とても昔に、聖女と呼ばれていたことがあったのよ。なので、少しだけど、教えることができるの」
お婆ちゃんは私に優しく笑ってくれた。
お婆ちゃんと一緒に、とても大きなベッドに上がり、伏せるニコール様の横に並んで座る。
お婆ちゃんが私の腕をとり、ニコール様の胸の上に手をかざすように促される。
「少しかもだけど、生命力を感じるわね?」
手のひらに、弱々しい、本当にかすかだが、
ニコール様の生命力を感じることができた。
「そこへ、自分の生命力を注ぐような感じをイメージして」
私は言われたままに、ニコール様へ生命力を注ぐようなイメージをした。
何か自分の全てが取られていくような感覚に陥る。
ああ、私もしかしたらこのまま死んでしまうのかもしれない。
……でももう、どうでもいいか。
リアムのために死ねるのなら、いいのかもしれない。
ニコール様を助けて死んだのなら、リアムの記憶に少しは残ってくれるかもしれないし。
もう自暴自棄になっていたのかもしれない。
「ダメ」
お婆ちゃんが私の腕を取って、ニコール様の上にかざしていた手を、お婆ちゃんの胸の前で両手で優しく握りしめてくれる。
「あなたは素晴らしい人。自暴自棄になったら全部エネルギーを取られてしまうわよ」
私は、この優しいお婆ちゃんに、自暴自棄になっていたことを気づかれて、少し恥ずかしくなる。
「大丈夫。私もそうだったの。いい呪文を教えてあげる。私も聖女の能力を使うとき、いつも唱えてたの。いい?今から言うことを一緒に繰り返して?」
「はい……」
「私は、大丈夫」
「私は、大丈夫」
「私は、頑張らなくても、無理しなくても、今のままで愛されても、いい」
「私は、頑張らなくても、無理しなくても、今のままで愛されても、いい」
「私は、自分の好きな人に愛されても、いい」
「私は、自分の好きな人に愛されても、いい」
……私は繰り返しながら、泣いていた。
お婆ちゃんは優しく微笑む。
「もういいかな? あなたは、愛されてもいいの。今のままで、大丈夫なの。何も無理したり頑張らなくてもいいのよ。今のままでも、価値があるの。だから自暴自棄にならないで。聖女の能力を使うときは特に、自分を愛してあげて」
「はい……」
頷きながら、思う。
私は今まで、自分を愛してあげたことなんてあっただろうか?
平民だからと、自分をずっと卑下していなかったか。
平民であることを言い訳にして、自分を愛するための努力をしないで、不必要に無理したり、不必要に頑張っていなかったか?
お婆ちゃんの優しい温かい手が、
「あなたはあなたのままで大丈夫」と肯定してくれているような感じがした。
「私も、同じように先輩に教えてもらったのよ。あなたみないな可愛い子に教えられて幸せだわ。さぁ、今度はきっと大丈夫ね?」
私はまた、ニコール様の上に手をかざして、自分の生命力を注ぐイメージをした。
だが、今度は全てを取られるような感じはなく。
どんどん自分の中から、生命力があふれるような感覚がした。
今度は、大丈夫。
私は、ニコール様にエネルギーを注ぎながら、生きてから初めて、自分が許されたような気がしていた。




