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72話 魔王対峙


 俺は走る。


 どうか,どうかみんな無事でいてくれ。


 そして町を抜け,ついに戦線の基地まで来た。


 俺はそのテントのなかに飛び込む。


「今の状況を教えてください」


「おお,君はヒロキ君か。ちょうどよかった」


 俺は顔が青ざめる。


 そこには,体中に包帯を巻いたビルさんがいたからだ。


「ビルさん。どうしたんですか?」


 俺は駆け寄る。


「戦っていたら,少しへまをしてしまってな」


「ビル団長,あなたはへまなんかしてないですよ。ただ,さすがに相手が強かっただけですよ」


「そうだな。だが俺がたかがB級の魔物に負けるとは」


「それで,今の状況は」


「今は,相当押し返してきている。何より右翼と左翼の,君の仲間の働きが大きい」


 そうか。あいつらも活躍しているのか。


「それで,本陣は?」


「それだがな,今連君たち勇者一行が戦ってくれているよ」


「連がこの街にいたんですか?」


「ああ。確か精霊さがしの途中だっていっていたな。それで,だ。今彼らが戦っているのが魔物なのだが・・・」


「魔王がいるんですよね」


「そうだ。今のところ魔物相手であれば優勢だ。だがここに魔王が入ってくればどうなるかはわからん」


「それで,攻めてきているのはどの魔王なんですか?」


「それは・・・空間の魔王 デルタモルだ」


(なんですって? 空間の魔王,デルタモル?)


 どういうことだ? あいつは俺が倒したんじゃなかったのか?


(はい。あの時は弘樹が確かに倒していたはずですが)


 つまり,復活したか,あるいは・・・。


(生きていた,というわけですか)


 だが,どちらにしよ倒すしかない。


「分かりました。それでは,本陣には俺が出ます」


「分かった。助かるよ」


 俺はテントからでて,戦場へと向かう。


 さて,俺はどこまで力を出そうかな。


 竜人まででいいならそれでいいが,魔王となるとまだ懸念が残るんだよな。


 力を出さずに負けました。じゃ嫌だしな。


 そして,本陣の戦線までついた。


 そこではたくさんの騎士が魔物と戦っている。


 その中には連の姿もあった。


 さすが連というべきか,そこら辺の魔物には遅れを取らないようだ。


 連の仲間たちも強くなっていて,C級であれば自力で,B級であれば仲間と協力して時間をかければ倒せるまでになっているようだ。


 なあシー。そういえば魔物のランクってどうやって決められているんだ?


(それは一般的なステータスです。それぞれの階級には決められただいたいのステータスがあり,それに則して分けられます)


 なるほど。


 じゃあさ,人間もAとかBとかに分けられるってこと? あ,それが冒険者か。


(いえ,そういうわけではありません。人間や獣人などの場合,魔物で分けた場合の一つ上あたりのランクになります。これは,人間などは集団で戦うことが想定されているからです)


 そうなんだ。じゃあ俺は今どのくらいなんだ?


(S級ですね)


 S級?

 

 よっしゃ。


(ですが気をつけて下さい。S級とは,ランクでは測れない強すぎるものを集めた階級です)


 つまり,俺より超強い奴もいるってことだな。


(はい。それに,ここからは憶測ですが,風竜王フォールフィーは弘樹より強いです?)


 ん? どういうことだ?


 俺は一回勝ってるんだぞ。


(そうです。ですがフォールフィーの具体的なステータスはまだ測れていません。正確には測れませんでした)


 つまり・・・。俺より高い可能性があるんだな。


(はい。単純に鑑定への耐性が強い弱いで計れたり計れなかったりするので一概には言えませんが,その可能性があるってだけです)


 そうか。忠告ありがとう。


 だがフォールフィーが力を出し切っていない理由か。


 何か重要な気がする。これは忘れないでおこう。


 

 さて,俺も戦いに参加するか。


 そして俺は連のもとに駆け寄った。


 ちょうど連が魔物を倒した瞬間に話しかける。


「連,大丈夫か?」


「お,弘樹か。そうか,お前も加勢してくれるんだな」


「ああ。それより現状はどうなってるんだ」


「それが,魔物だけならこちらが勝っているんだが」


「あそこにいる魔王か」


 俺は空中にいる魔王デルタモルを見上げる。


 そこには腕を組んで何やら考え事をしている魔王がいた。


 何もしてこない分不気味だ。


「一体あいつの狙いは何だろうな」


 連がそういう。


「分からない」


「だが,このままあいつが静観しているようなら・・・」


 だがその時だった。


 ドゴーン。


 大地が,割れた。


 俺たちの前が横一門にえぐられている。


「まさか・・・」


 連は戦闘態勢を取る。


 見上げると,そこには腕を振り下げた魔王がいた。



 まさか。魔王の仕業か?


(弘樹,あの魔王が動き出しました)


 ああ。


 だが俺は分断された大地を見て思う。


 こいつこんなに強かったっけ? と。


(弘樹,それは私も思いました。前までのデルタモルはもっと弱かったはずです)


 だよな。


 だがこいつがこんなに強くなっているってことは,何かあるな。


 

 俺は一歩前に出る。


 デルタモルと交戦するためだ。


 だがそれは連によって遮られた。


「弘樹,悪いけどあの魔王は俺が倒したいんだ」


「連。あいつは前よりかなり強くなってる。危険すぎる」


 だが連は首を振った。


「違うんだ,弘樹。俺があいつと戦うのはあいつが弱いからじゃない。俺が倒さなきゃいけないからだ」


「連・・・。わかった」


(弘樹。それは危険です。今すぐ辞めさせるべきです)


 そうかもな。


 だがこいつがやりたがってるなら俺はサポートする義務がある。


(そうですか)


「連,周りの魔物は任せてくれ」


 俺がそういうと連は微笑む。


「ありがとう」


 そして連はゆっくりと魔王の方に移動した。


 俺はそばにいた立夏たちのところに合流した。


「てかお前たちいたんだな。全然わかんなかったぞ」


「うるさいわね。しっかりいたわよ。それより早く魔物を倒すわよ」


 はいはい。




連は話しかける。


「おい,魔王」


返答はない。


「お前はデルタモルか?」


 返答はない。


「何が目的だ」



「我の目的はただひとつ。あの方に認めていただくこと」


「あの方? 誰のことを言っているんだ」


「そのためには友の犠牲すら許そう」


「俺の話を聞け」


「それをなすためなら,目の前の脆弱な虫けらの掃除も,喜んで引き受けようぞ」


 全く話が通じない。

 連はいらだった。

 剣を抜く。


「魔王,お前の言っていることは分からんが,征伐してやる」



 連が切りかかる。


 

「地を這う虫より退屈なり」


 

 その剣はデルタモルにあたるかと思われたが,デルタモルを通り抜けた。



 なにっ。


 

 連はもう一度切りかかる。


 

 だがまたもや剣がデルタモルを通り抜けてしまったのだ。


 なぜだ。


 連は考える。


 剣が通り抜けるのには理由があるはずだ。


 だがそれが分からない。



「悩める子羊よ」



 魔王が魔法を放った。



 それは,幾千もの見えない剣だった。



「どういうことだ」



 連は当たってしまう。



 い,いてえ。


 剣が当たったところから血が出ているようだ。



 くそが,超いてえな。


 だが,おかげで分かったぜ。


 あいつの使ったトリックがな。



 そして連は切りかかる。


 

「獣は学ばない」



 だが,彼は獣ではない。人だった。



 ゴシュ。



 連の剣がデルタモルを切り裂く。


 

 傷としては浅く,致命傷には程遠いが,それは確かに攻撃が通った瞬間だった。



 連はデルタモルに話かける。



「簡単すぎるんだよ,魔王さん。あんたが使えるのは空間魔法だ。つまり俺の攻撃を防いだのも空間魔法だ」



「そんで,空間魔法の中でも時空を捻じ曲げるやつだろ。だから俺の剣は切り裂いても切り裂けなかったんだ」


「ま,当たり前だよな,剣筋が曲がっているんだから」



「だから,俺はそれを逆手に取った。剣筋が曲がってしまうなら,曲がった後に宛てられるようにすればいい。だろ」



「少しは,やるようだな」



「ああ。勇者だからな」



 そして連は畳みかける。



 くそ。

 まだ攻撃が100パーセント当たるわけじゃない。というか二回に一回くらいは俺が読み間違えている。


 だが,これを続けていれば必ず勝てるはずだ。


 現に,連の攻撃は次第に当たりやすくなってきていた。全て当たるようになるのも時間の問題だろう。



 だが,勝機が見えたと思えた故に連はある可能性を見逃していた。


 

 それは見逃すにはあまりにも大きな可能性。



 そう,デルタモルが反撃するという可能性だ。



「ぐわっ」



 連が吹っ飛ぶ。



 どうやらデルタモルの空間魔法が連に直撃したらしい。


 攻撃に集中するあまり周りが見えていなかったようだ。



 連は地面に倒れる。



 起き上がろうとするが,足にうまく力が入らないようだ。



 俺は,いや立夏たちはたまたまその瞬間を見ていた。


 ちょうど魔物を倒したときだったのだと思う。


 そう,その連が刺される瞬間を。



 倒れた連の背後にデルタモルが現れる。



 あれは・・・瞬間移動か?



 まずい。



 そう思った俺は急いで駆け寄ろうとする。



 だが・・・。



「待って,弘樹」



 立夏に腕をつかまれた。



「連は,一人で戦うって言ってるの。だから連は絶対に負けないの」


 はああ?


 そんなこと言ってる場合か?


 あんたの彼氏が大ピンチなんだぞ。


 すぐにでも駆け寄るべきだろ。



 そして俺は連の方を見る。



 連は,ちょうど胸を刺されていた。



「れ,れーーん」



 俺は叫ぶ。



だが連は反応しない。



「咲,この手を放せ」



 咲は放心していた。



「嘘。連,絶対負けないはずじゃなかったの?」



「咲っ」



 俺は強引に手をほどく。


 

 そして連のもとに駆け寄った。



「連,連,大丈夫か?」



「弘樹,か」



「ああ。弘樹だ。お前,大丈夫なのか?」



「ああ。俺なら大丈夫だ。だって俺は主人公なんだぜ」



「何言ってるんだ。お前絶対大丈夫じゃない」



「なあ,弘樹。俺の生き方は間違っていたのか?」



「は? 何言ってるんだ」



「だから,俺の生き方は,正義だよな」



「ああ,そうだ。お前はいつだって正しいよ。だから逝くな」


 

 連の周りに立夏たちも寄ってくる。


「連」


「おい連」


「レンクン」



 だがそれを見た連は・・・。



「よかった」



 安堵したような顔をした。



「おい,連」


 連は,目を閉じた。




 俺は立ち上がる。



(弘樹)



 あいつは許さない。


 デルタモルは許さない。


(弘樹っ)



 シーか。なんだどうしたんだ。



(弘樹,冷静になってください。あれは舐めてかかっていい相手ではありません。ここはいったん退却を・・・)



 うるさい。


(はい)



 だからうるさい。



 確かに俺は今怒っている。



 合理的じゃないとこもある。


 だがな,俺はこの感情を抑えろと言われたら無理だ。



 時には論理的じゃないほうがいい時もある。


 

だから,全力でサポートしてくれ。



(弘樹・・・。分かりました。不肖シー,全力で働かせてもらいます)



ああ。



 と言ってもただなぎ倒すだけだがな。



(ですが,あの空間魔法の防御を突破しないことにはどうにもなりません)


 ああ。だがそれは大丈夫だ。


 だが一つ心配だとすれば,第三者の介入か。



(それはおそらくないと思いますが)


 一応だよ。俺の予感だ。


(はぁ)


 ま,とりあえずはデルタモルだ。あいつだけは許さない。



 俺はデルタモルをにらむ。


「弘樹,俺たちも手伝うよ」


 ボブたちが話かけてきた。



 その気持ちは嬉しいが,すまんな。



「すまん。お前ら足手まといだ」


「は?」



 だが風子は何か悟ったようだ。



「分かった。みんな下がるよ」



「でも・・・」


「今の私たちにできるのはただ見るだけ。だけどその代わり弘樹,一つ約束して」



「なんだ」



「連の仇,絶対にとって」


「ああ,もちろんだ」




 俺はデルタモルと対峙した。


 シー,デルタモルの様子はどうだ?


(ハイ。魔王デルタモルの解析はできませんでした。どうやら鑑定阻害系のスキルを持っているようです)


 そうか。


 ま,あいつが俺よりステータスが高いってこともあるかもだが,そうではないことを祈ろう。


 さて,連の仇だ。思う存分戦わせてもらうぞ。



 さてまずは・・・。



「竜人化」



 そして俺は手を振り上げる。



 そして,発動する。


「第十術式 天牙王砲」



 これは,俺が編み出した術式の一つ。


 

 俺が唱えると同時に空からいくつもの炎の塊が落ちてきた。



 その一つ一つが大地に触れた瞬間爆発をする。



 それはまるで絨毯爆撃。



 俺の目の前が真っ赤に染まった。



 そして,



 見えない剣が飛んできた。



 俺はそれを重心をずらすだけでかわす。



 ドゴドゴドゴ。


 俺の後ろの大地がえぐれていくのが分かる。



 すさまじい威力だな。


(ハイ。おそらくあれは空間魔法。防御するのは難しいと思われます)



 だよな。



 そして煙が晴れた。



 そこには無傷とはいかないが,あまりダメージを受けていないデルタモルがいた。



 あれも空間魔法なのか。



(はい。空間魔法で体の周りを覆い,すべての攻撃を湾曲させてしまっています)



 そうか。



「あっぱれなり。この時空の歪みを超えて我に傷を負わすなど並ではなし。我につく心はあるかな」



 俺は笑う。



「全くないね」



 そして続けざまに言う。



「前も言った気がするけどさ,あんたは人の強さをはき違えている。今,この戦場では俺が最強で,お前が最弱だ」



「ふむ」



「て,言うことで,さようなら」



 俺は手を前にかざす。



「第七術式 空間燃脚」



「何をしても我には効かない」



 これは空間を燃やす魔法。



 そして相手が使っているのが空間魔法。もうわかるな。



「効果は抜群だ」



 デルタモルに炎の波動が飛んでいく。



 そしてそれが彼の空間魔法にあたった瞬間,空間が燃え始めた。



「ぐ。なんという魔法だ。我の空間魔法が,燃えてゆく」



(弘樹,そろそろです)



 ああ。



 俺はとどめを刺す。



「第九術式 灼熱の息吹」



 俺の手から圧倒的な炎が放たれる。



 それは大地を消し,魔王を燃やし尽くした。



 そして,その先にいた魔物も一気に消し去っていくのだった。



(弘樹,弘樹がこの魔法を使ってるときっていっつもいろんなものが一気になくなりますよね)


 ふ。気のせいさ。



 俺は後ろを振り返る。



 そこには涙を流しながら喜んでいる立夏がいた。



「連・・・」



 俺は複雑な気持ちで帰っていく。





 時間は少し進み,弘樹が町に戻った後の戦場にて。



「嘘。あんな力もってるなんて知らない」



 美しい女がつぶやいていた。


 

「あんなのどうすれば殺せるのよ。でも殺さないと私が死んじゃう」



「魔王も役に立たなかったし,次はなにで行きましょうか」



 そう言い残してその少女は,消えた。



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