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69話 右翼での戦い(前編)

 戦場の右翼は混沌のさなかにあった。


 決して魔物に押されているわけではない。それどころか騎士側が優勢であった。


 だがその戦闘も今は行われていない。


 それもそうだ。今,魔獣も騎士も圧倒的力の前に動けずにいたからだ。


 彼らはみな一様にある場所を見つめている。それは戦場のど真ん中。そして,絶えず魔法が飛び交う場所でもあった。


 

 事の発端は数分前。まだ騎士が魔獣と交戦を行っていたころだ。


 かなり前から始まった戦闘において,この右翼はかなりの功績を誇っていた。


 騎士の熟練度,交代のペース,そして陣形。そのすべてがこの戦線に置いて最高練度だったと言ってもいい。


 たいして相手も魔獣,ライオンや熊,狼を形どった魔獣は執拗に執拗に攻撃を重ねてきた。


 こうして互いに一歩も譲らない戦線ができたのである。


 だがこの拮抗も崩れた。正確には崩れさせられた。


 そう,魔人の出現である。


 騎士たちが魔獣と交戦していると,いきなり空が光った。そして何かが戦場に降り立つ。


 土煙がはれると,そこにはつえを持った,魔人が立っていた。


 その魔人は近くの驚いて固まっている騎士を見ると,そのつえを一振り。真っ二つにしてしまった。


 それからも彼の蹂躙は続く。


 あるときは魔法で,ある時はつえで。これによって騎士団は戦力を大きく削られてしまった。


 おいおいまじかよ。

 この右翼の指揮官であるトーマスはこの状況を冷静に分析していた。


 だがいくら分析しても結果は変わらない。このままでは一人の魔人のせいで戦線崩壊。そしてここが崩れれば町はたちまち魔獣であふれかえるだろう。


 すなわちここを何としても守らなくてはいけないのだが,それにはあの魔人を倒さなくてはいけない。


 それの意味することは・・・。


 俺が出るしかないか。


 ということだった。



 そうと決めたら彼の行動は早い。近くにあった一冊の本を取ると魔人のもとへ行く。


 もちろん指揮を彼の腹心であるルカルに任せるのは忘れない。


 そして戦場にトーマスが降り立った。


 あたりの騎士はどんどん退散していく。どうやらルカルの指示のようだった。


 さすが分かってるな,と思いながらトーマスは気だるげに本を,正確には魔導書を開いた。


 そこに魔獣が寄ってくる。


 それと同時に彼の周りに魔法陣がいくつも出現した。



 そして,魔獣ははじけた。


 だが魔獣は繰り返し繰り返しやってくる。


 結果は同じだ。トーマスに近づいた瞬間体がはじける。狼も,トラも,ライオンも熊も。


 どの魔獣も彼にはかなわない。


 そしてひときわ大きな魔法陣が出現した。その場所はトーマスの近くではなく,魔獣たちが多く密集している場所の空だ。


「さて,面倒だけど殺しておくか」


 彼の魔導書が光った。


「古代魔法 ジャッジメント」


 その瞬間,彼の描いた魔法陣から剣が,剣が,剣が出現した。


 それは空を覆いつくす。そして魔獣の群れに襲い掛かった。


 そこにあったのは一方的な虐殺。魔獣が,本来ならば討伐が困難な魔獣が軽く殺されていく。


 騎士たちも,魔獣たちも彼に畏怖した。


 パチパチパチ。


 そんな音が聞こえる。誰かが彼に拍手を送ったようだ。


 来たか。トーマスはそう思った。この状況で拍手できるのは一人くらいしかいない。


 ーーーーーー魔人だ。


「素晴らしいね,君。さすがは世界屈指の人間の大国の副騎士団長だ。実に,殺しがいがある」


 彼の殺気があふれ出す。


 トーマスは身震いしたが,それを隠して話す。


「そりゃどうも。こっちとしてはあんたに退散してほしいんだがね」


 それを聞いた魔人は笑った。


「それは無理だね。私も命がかかっているんでね」


「そうかい。なら,死んでもらおうか」


「そうくるかい。まあいい。私はジュペイン。空間の魔王四天王に名を連ねるものだ」


「俺はトーマス。せいぜい覚えておきな」


「それでは,やりあおうか」


 そして,戦いが始まった。



 やれやれ,面倒だな。

 それがトーマスの,このエンラルド最強の魔導士の気持ちだった。


 なぜなら彼は負ける気などさらさらしていなかったのである。確かに彼の殺気は,魔力はすさまじかった。それこそトーマスが羨ましく思ってしまうほどに。


 だがそれは敵対するジュペインも同じだ。彼は,一部例外はあるが人間に負けたことなどない。


 そんな互いの尊厳をかけ戦いが今始まった。


 トーマスは魔法陣を描く。


 

 そして魔法陣から出てきたのは無数の剣。


 

 それらは一気に発射されるとジュペインに襲い掛かった。



 だが剣はジュペインにあたる寸前に何かにあたって砕け散る。


 

 二発,三発と剣がその見えない壁にぶち当たった。



 だがその壁は揺らぐ様子がない。



 チッ。


 トーマスが軽く舌打ちをする。彼にとってもこれは予想外のようだ。


 

 だが彼の猛攻は終わらない。



 彼が手に魔力を込める。そしてそれらを一気に放出した。



 それらは一直線にジュペインにむかう。まるでミサイルのよう。



「ぬん」



 だがただ見ているジュペインではない。



 ジュペインはつえを持ち上げるとそれを一回転させた。



 するとどうだろうか。彼の周りにいくつもの宝石が出現したではないか。



 次第にその紫の宝石たちが光を放ち始める。



 そしてトーマスの魔力砲が到達しようというとき,宝石の輝きが最大になる。



 すべての宝石から紫色の閃光が放出された。



 それらはトーマスの魔力砲を打ち落とす。だが彼の出した宝石の数は,6個。


 対してトーマスの魔力砲は二本だ。



 トーマスに閃光が迫る。



「ふふ,甘いな」



 だが彼は焦るどころか笑っていた。



「光魔法 閃光・乱舞」



 トーマスがそう唱えると,彼の周りに10もの光の球が浮かぶ。それらは一つずつにわっかがついていて,そこから光属性のビームが放出されていた。



 それらはジュペインの紫の閃光を打ち落とすと,さらに彼に迫る。



「ほう。これは面白くなってきたな」



 ジュペインは軽いステップで彼の攻撃をかわしていく。



「ふふ,さすが,だな。さすがは魔人だ。さすがは四天王だ」



 トーマスは考える。

 このままではらちが明かないか。なら,次の一撃で決めてやる。



「さあ,魔人ジュペイン,終わりにしよう」



 そういうとトーマスは魔力をため始めた。


 

 それをみたジュペインは考える。

 向こうがその気ならこちらも一撃で仕留めてやろう,と。



 ジュペインも魔力をため始めた。



 お互いの魔力が高まる。



 それだけで周囲の空気は乾き,地面には日々が入る。



 だがその緊張も終わりが来た。



「さて,終わりだよ,魔人ジュペイン」



「それはこちらのセリフというもの」



 お互い魔力をため終わった。



 トーマスは魔力を解放した。



 そこに出現するのは金色の巨大な砲台。



 全長10メートルを超えるこの砲台の中心には核となる光の宝玉がある。


「さあ,最強の光魔法を見せてやる」




 一方ジュペインも魔力を解放した。



 そこに現れたのは巨大な悪魔。



 それは口を大きく開け,今にも人間に襲い掛かりそうだ。


「闇魔法の真骨頂,見せてやろう」



 

 両者の魔法が,白く,黒く輝き始める。



「終わりだ,光魔法 天滅の砲台(てんこわすじんぞうへいき)」



「死ね,闇魔法 悪魔法の戯れ」



 お互いの魔法からエネルギーの光線が放出された。



 その白と黒の光線は二人の中心で交わる。



 ドガががガガガ。



 だがどちらも一歩も引かない。



「俺は,負けるわけにはいかないんだ」



 トーマスがそう叫ぶ。



 それにこたえるように光魔法の威力が上がった。



「グ,なんだこの力は」



 光魔法がどんどん押していく。



「くそう,私はこんなところで・・・」



「さあ,終わりだジュペイン」



 光魔法がジュペインに迫る。そしてついに闇魔法が消えてしまった。



 光魔法の火力がしり上がりに上がっていき,トーマスが勝ちを確信したその瞬間,



ドシュ。



 光魔法が,消えた。



「何がおきたんだ」


 ジュペインは混乱した。


 彼はトーマスのほうを見る。彼は立っていた。その腹から剣を見せながら。


 ドサッ。


 トーマスが倒れる。


 その後ろには一人の女が立っていた。


 その女はジュペインの方を見るとにこっと笑った。


 ジュペインの周りに血だまりができる。トーマスが負けてしまった瞬間だった。


「まさか,ネイドか」


「そうよ。ジュペインさん」


 そしてネイドと呼ばれた女はジュペインに寄っていく。


「で,ジュペインさん,あなた負けそうになってましたよね。何か言うことはないのですか?」


「あ,ああ。助かったよ。あのままだと俺は死んでいたかもしれない」


「ええ,お役にたって何よりですわ。では早速人間どもを殺しましょう,華々しく」


 そしてその女は不気味に笑った。そして騎士たちのいる方を見る。


 騎士たちは死を覚悟した。



「光魔法 光剣」


 だがそんな二人のもとに光の剣が舞い落ちる。


「だれよ,もう」


 ネイドはうっとうしそうにそう叫ぶ。


「そこまでだ,魔人ども」


 そこに降り立ったのは槍を持った騎士。そう,カウラだ。


「あ,あんたは・・・」


 ジュペインが何かを言いかける。


「あら,あなたはジュペイン,だったかしら。また私たちと敵対するのね。前はぼこぼこにされてたくせに」


 だがそれを聞いたジュペインはにこっとわらう。


「ふふ,前のような失態はしないさ」


 挑発が聞かなかったカウラは少しイライラしながら,


「で,そこにいる人は誰かしら」


 と尋ねるのだった。


「あら,初めまして。私はネイド。魔王軍四天王の末席に身を置くものですわ」


 なるほど,前いたミーナという女の代わりだな。

 カウラは理解した。


 ちなみにトーマスはカウラが話している間に騎士たちによって回収されており,今回復中だ。


 トーマスが回収されていることを確認したカウラは槍を握りしめる。



「そう。じゃあまとめて殺さないと,ね」


 

 


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