幕間 カウラ2
大理石でできた,狭い部屋。
ドアには鍵がかかっていて,中にいる少女を逃がさんとすることがうかがえる。
窓からは陽が差し込んでいた。
その部屋の中心で規則正しい呼吸を繰り返すのは,幼いカウラだ。
今はベットで寝ているがもう少しすればすぐに騒ぎ出すだろう。
何分かしたころ,カウラの目が覚めた。
「ふぁぁぁぁ。よくねたぁ」
そう言ってカウラは起きる。だがすぐに見慣れない天井が目に入った。
「あれ,ここどこ」
カウラは呟く。
「それに・・・私は誰?」
カウラは呟く。
その時,ドアのかぎが開く音がした。
ガチャン,ギー。
そんな音がして一人の男が入ってくる。
その男は,髪は白くなり,どうやら初老に差し掛かっているようだ。
「やあ,こんにちは」
そのおじさんはカウラに近づくとそういった。
「ひっ」
カウラは逃げるように後退する。
「逃げられたか。これは少しショックだね」
おじさんは穏やかにそういうとカウラとの距離を詰める。
「改めましてこんにちは。私はフラット。この孤児院の院長だ。それで君の名まえは?」
カウラは黙って首を振る。
「おや,教えたくないのかな。だけどね,ここに届けてくれた方から君の名まえは聞いているんだ」
フラットは続ける。
「君はカウラだ。いいね」
カウラは無言でうなずく。
カウラ,ね。それが私の名まえ。まだ何もわからないけどとりあえず私の名まえは分かったわ。一歩前進ね。
カウラはそう考えた。
「さあ,ここは孤児院だ。ここには0歳の赤ん坊から15歳の青年までたくさんの人がいる。君もここになじむといいよ」
そういってフラットは立ち去って行った。
カウラはスクっと立ち上がる。
そしてドアの方に歩いていった。
「まずは情報収集ね。ここがどこなのか,私は何ができるのか,いろいろと知らなくちゃ」
そういってカウラはずんずん進んでいった。
ドアから出るとそこには長い廊下があった。
そして廊下にはいくつものドアがついている。どうやらここにはたくさんの部屋があるようだ。
まるでホテルのようだ。
みんなが寝る場所かしら。
廊下は左と右に繋がっていて何度か曲がっているようなので先がどうなっているかは分からない。
カウラはとりあえず歩いてみることにした。
てくてくてく。
少し歩くとそこには階段があった。
階段を降りるとそこにはまた廊下がある。
だが今度の廊下はあまり長くなく,何があるかが分かった。
少し行くと左右にドアがある。
カウラは右のドアを開けた。
するとそこにはたくさんのテーブルと椅子があった。
御飯を食べるところね。
そしてカウラは左のドアを開ける。
「わぁぁぁ」
そこには大きな広場が広がっていた。
そこではたくさんの子供たちが遊んでいる。
カウラがあっけに取られていると遊んでいた数人がカウラに気づいたようだ。
駆け寄ってきた。
「ねーねー。君はだれ?」
「もしかして例の新しいひと?」
「これからよろしくね」
「ふん,君がどうしてもっていうなら一緒に遊んでやってもいいぞ」
そんな声が聞こえた。
カウラは思いっきり笑顔になると
「うん,これからよろしくね」
というのだった。
これがカウラの孤児院での生活の始まりだった。
孤児院での生活はなかなかハードだ。
朝5時に起きるとみんなで集会所に集まる。
あとから知ったことだが集会所は食堂の奥にあったらしい。
そしてさらにその奥には保育所があるそうだ。
朝の集会が終わると次は朝ご飯だ。
朝ごはんが終わると待ちに待ったみんなで遊ぶ時間,とはならず勉強タイムが入る。
これは院長がみんなに巣立ってほしいという思いから生まれたらしいが、その思いとは裏腹に不人気のようだ。
午前中勉強し,昼ご飯を食べたらいよいよみんなで遊ぶ。
みんなで広場に出て木登りや鬼ごっこをしている。
陽が落ちる頃にはみんな食堂に集まって夕ご飯だ。
そして寝る。
このリズムを毎日続けていた。
その間にも町へ出かけて行って町のために働いたり,あるいは魔物退治をした。
そのすべてにおいてカウラは大活躍で会った。町で噂になるくらいには。
そんなカウラに転機が訪れた。
「どうも。私はこの国の騎士団長,ビルだ」
カウラは教会に突然やってきたそのおじさんを凝視する。
だがカウラはこの人のことを嫌いになった。
なぜなら,その人は,カウラたちがご飯を食べる直前にやってきたのだ。
今目の前にはホカホカの食事が誘惑してくる。
「えー,今回私がここに来たのは,他でもない,騎士へのスカウトのためだ」
カウラはおなかがすいてイライラしてきた。
「そのためにだな,まずはこの国の騎士団の歴史について話しておこう」
カウラはよだれを我慢できなくなってきた。
「この国の由緒正しき騎士団が誕生したのがはるか千年前。大神さまがこの世に舞い降り・・・」
カウラはついに我慢できなくなった。
カウラは手を挙げる。
「あのー,ご飯食べてもいいですか?」
その瞬間,教会のシスターたちの顔が青ざめる。
「す,すいません」
あわてて神父様が謝るが,ビル団長はそれを手で制す。
「さて,私は今日ここに来た理由を話そうか。それはだな,カウラ,君のスカウトだ。どうだ,私と一緒に来ないか?」
カウラは周りを見る。
神父様は頷く。シスターもうなずく。
カウラは頷き返すと,
「嫌です」
といった。
こうしてカウラは騎士になった。
さて,カウラはここからどう成長していくのか。それはまた別の話。




