061話 丸く収まった件
さて,山賊の問題はひとまずは解決したが,まだ解決しないといけない問題がいくつかある。
まずはカウラだ。
まだ体にしびれが相当あるようで,動けていない。
さてどうしたものか。
(それでしたら,炎魔法を使って,回復させることをおすすめします)
麻痺って回復魔法でどうにかできることなのか?
(はい。もともと炎魔法は何かを燃やす魔法です)
そうか。なら麻痺を燃やすこともできるのか。なんでもありだな。だが,やってみよう。
俺はカウラの方による。そして,炎回復魔法を発動させた。
すると,カウラを炎が包む。そして炎がなくなった。
麻痺がなくなったカウラは起き上がる。僅か数秒でなくなったことに相当驚いているようだ。
「おい,嘘だろ。麻痺がなくなっている。ヒロキ,お前回復魔法まで使えるのか?」
「まあな」
そして俺はバカンドの方にむかう。
そして俺はもう一つの問題に取り掛かるためだ。
さて,考え方によってはこっちのほうが山賊を倒すより大変だぞ。どうしようか。
俺はカウラの方に目線を送る。
するとカウラが寄ってきた。
そして小声で
「ヒロキ,バカンドの処分だが,お前に任せることにするよ」
と言ってきた。
「そうか。ありがとう」
そうとだけ言うと,俺はバカンドの方に行く。処分を言い渡すためだ。
そしてバカンドの前まで来た。
俺は話し始める。
「今からお前の処分について言い渡す」
「ああ」
バカンドは何かを察しているのか,神妙な顔つきだ。
「お前の処分は,山賊の手下となったので死刑」
バカンドが息をのんだ。
「または,俺たちについて来い」
「は? どういうことだ」
バカンドが聞き返した。
すると隣で聞いていたカウラが声をあげる。
「そうか。なるほど。ヒロキは策士だな」
「まて,どういうことだ。俺は全く分からないんだが」
俺はカウラに目線を送る。それだけでカウラは察してくれたようだ。
「私が説明しよう。まず,大前提としてお前はあまり悪くない。だが山賊の手下になっていたのは事実。よって何も罰を与えないということはできない。ここまではいいな」
「ああ」
「そして,次に私たちはこれから様々な場所を旅する予定だ。だが馬車を持っていない。御者持っていない」
「そうか」
「もうわかったな。お前は私たちの監視下に置かれる,という罰だ」
「つまり俺はまだ生きていて,馬車の御者をしていていいのか」
「そういうことだ。あっているよな,ヒロキ」
俺は無言でうなずく。だがカウラはすごいな。俺はバカンドに御者になってほしかっただけなのに,正当な理由をつけてくれた。
これで大手を振ってバカンドをこき使えるな。
◇
「さて,いろいろと片付いたことだし,今日はここらへんで野宿しようか」
「そうだな。私も今日は疲れた」
「じゃあちょうどここは空き地になっているからここの野営所を作ろうか」
「あ,あの,少し言いたいことがあるんだが」
ん? バカンドか。なんだ?
(弘樹,例の件だと思われます)
あ,そうか。
「今俺の妻は山賊に監禁されていると思うんだ。もう山賊はいねえから俺一人で十分だから,迎えに行ってきていいか?」
「ああ,その件か。それなら問題ないぞ」
それを聞いたバカンドは分からないと言った表情になっている。それもそうか。
だって普通,こんなこと想像もつかないもんな。
「バカンドさん」
この場にバカンドさんの妻のドンカバさんがいるなんて。
バカンドさんは声の下方を振り向く。すると,森の中から女の人が走ってきた。
そのままドンカバさんはバカンドさんに抱き着く。
「え,ドンカバか。なんでここにいるんだ」
「それはね,不思議な炎の精霊さんに助けてもらったの」
「炎の精霊さん? もしかして・・・」
バカンドは俺の方をみる。
大当たりだ。その炎の精霊は俺が召喚したやつだ。
時はかなり戻る。
俺がバカンドの話をきいた後。シーがこんな提案をしてきたんだ。
(弘樹,この話の真偽を確かめるためにも,ここは山賊のアジトに行くべきではないですか)
それができたらいいんだが,俺がここを離れるわけにはいかないだろ。
(そうです。そ,こ,で,精霊召喚をしませんか?)
精霊召喚? それって馬車で言っていたやつだよな。
(そうですよ)
今の俺にできるのか。それにアジトに潜入するんだから相当高い知性を持つような精霊じゃないといけないだろ。
今の俺にそんな精霊が召喚できるのか?
(余裕です。というか,水とか土などの炎以外の属性の物であればきついですが,炎であればどんなに高位な精霊でも召喚できると思いますよ)
そうなのか。やはり適性が関係してくるのか。だが,炎ならいける,と。
これはやらない手はないな。
そして俺は精霊召喚魔法を発動させる。
すると,見るからに強そうな,炎の精霊の召喚に成功した。
ちなみに精霊召喚魔法と召喚した炎の精霊は隠ぺいしてあるので周りからは見えない。
「グガガ。あなたが私のマスターか」
「そうだ」
「我を召喚するとは,何者か」
「そこはまだ教えない」
「我にはこの後召喚される予定があるのだが」
「そうか。だがいま召喚しているのは俺だ。俺の命令を聞け」
「グガガ。承知した。して何が目的か」
「君にやってもらうことは簡単だ。近くに山賊の住処がある。そこに閉じ込められている女を助けてこい」
「グガガ。して対価は」
「そうだな,何がほしい」
「グガガ。我に欲しいものを聞くなど愚なり。だがしいて言えば『名』である」
名前か。
「いいだろう」
「グガガ。貴様はあほであるかな。だがここに契約は成立したなり」
そしてその炎の精霊は消えていった。
これで大丈夫だろう。
そして山賊との戦闘が始まった,という感じだ。
時は今に戻る。
「全く,お前といるといつも予想を裏切られるな」
そしてバカンドさんたちが寄ってきた。
「ヒロキ様。この度は本当にありがとうございました」
「ヒロキでいいって。バカンドさん,奥さんに再会できてよかったね」
「あ,ありがとうございます」
「今回の件,バカンドから聞きましたわ。この愚夫の後始末は私にお任せください。そして,これからは夫婦でお仕えさせていただきます」
「そうか。ありがとう」
バカンド夫妻は深くお辞儀をした。
やはり誰かを助けるのは気持ちがいいな。
さて,ようやく野営の準備に取り掛かれそうだな。
(弘樹,精霊への対価を忘れています)
そうだった。あいつ怒ると怖そうだからな。てか今どこにいるんだ?
(今は近くの森に待機させています)
そうか。
俺はバカンドの方を向いて,少し抜ける旨を伝えた。すると,
「ヒロキ様。野営の準備は私たちでやっておきますから,大丈夫ですよ」
と返ってきた。
ここは彼らのやさしさに甘えるか。
そして俺は歩いていく。
◇
近くの森に行くと,一か所だけ夜なのに明るい場所があった。
そこに行くと,やはりさきほどの炎の精霊がいる。
「グガガ,マスターか。忘れたのかと思い心配したぞ」
「安心しろ。俺は約束は破らないたちだ」
「グガガ。ならばよい。では名前を」
「そうだな。こういうのはじらすのは良くないな。お前の名まえは『シヴァ』だ」
シヴァは,神話の神で破壊神だったはずだ。
こいつの何するかわからない感じがまさに破壊神だろ。我ながらセンスが神ッてるぜ。
そして俺が名前をあげた瞬間,俺のMPが減った。そして金色の光がシヴァを包む。
「コ,コレハ」
そして,光が収まると,そこには身長二メートルを超える大男がいた。
「お前,随分かわったな」
「ああ」
「それにグガガって言わなくなったじゃないか」
「そうだな。ところで話がある」
「なんだ」
「俺,ヒロキについていく」
「は? どういうことだ」
「俺はヒロキの力に感動した。だからヒロキが死ぬまでついていく」
おいおい。どうなっているんだ。
だが,こいつ強そうだし,ついてくる分には構わないか。
「わかった,いいよ」
「感謝する」
そしてこいつはふっと消えた。どうやら姿を消せるようだ。便利で何よりだ。
さて,一人メンバーが増えたけど,野営場に戻りますか。
そして俺は歩き出した。
弘樹が去った後。
そこには一人の女がいた。
「まさか,今のは大精霊様?」
「だとしたらあのお方の作戦はどうなるのかしら」
「これは報告しないといけないことが増えそうね」
そして女は歩いていく。
野営所の方へ・・・