054 おなかをすかせた災害
さて,と。
さて,これはどういう状況かな。
なんで朝起きると隣にフォールフィーがいるんだ。もしかして,俺やちゃったか? これは羽目を外してしまったんか。
おもいだせ,俺。昨日のことを。
確か昨日はフォールフィーと『とんがりの里』で夕ご飯を食べた後,そのまま宿に戻ったんだっけ。
問題はその後だ。俺は歯磨きをして,公衆浴場に行って,それで帰ってきたんだよな。そして,俺はベットに入ったはずだ。
おかしいな。俺の記憶だとそういうことをした感じがしないんだが。
そしてフォールフィーが寝返りを打つ。
「んー。ヒロキー。わらわに乱暴しちゃだめなのじゃ」
おいおい,こいつもしかして,俺のベッドに入ったのか。まったく,俺だったからいいものを,これが他の男だったら大変なことになっていたぞ。
「フォールフィー,起きろ」
「なんなのじゃ。わらわはまだ眠いのじゃ」
こいつは何てやつだ。もしかして夜型か。
「ほら,もう朝だぞ。起きろ」
そしてフォールフィーがのそのそと起き上がってくる。
「ヒロキ,おはようなのじゃ」
「ああ,おはよう。それでさっそく聞きたいことがあるんだけど,いいか」
「な,何なのじゃ。朝っぱらから不穏じゃな」
「いや,正直に話してくれたら悪いことは言わないよ。で,フォールフィーは俺のベッドに入ったね」
フォールフィーは黙る。
「フォールフィー」
「しょうがなかったのじゃ。わらわは誰かのぬくもりがないと寝れないのじゃ」
なんじゃそりゃ。誰かのぬくもりがないと寝れない? もし本当ならすごい弱点じゃないか。
真偽はどうかわからないが,そう主張するなら許すか。
「分かったよ,フォールフィー。でもこれからはちゃんと寝る前に俺にいってくれよな」
「分かったのじゃ」
そして二人はベッドから起き上がった。まず俺たちは歯磨きをする。フォールフィーは知らなかったが,昨日教えてできるようになっている。
「さて,今日は冒険者として働くぞ」
「冒険者って何なのじゃ」
「冒険者っていうのは,魔物と戦う人間のことだよ」
「そうなのじゃか。分かったのじゃ。わらわは適当に魔物を倒してくればいいのかの」
「そうだな。フォールフィーは冒険者証をもっていないから,フォールフィーの頑張りも俺の物になっちゃうけどいいか」
「問題ないのじゃ。それにまたあの食堂で食べれるのじゃろう」
「そうだな。がんばっていたら,今日も行こうな」
「わらわ,全力で頑張るのじゃ」
風竜王の全力か。対峙する魔物はかわいそうだが,それは不運だと思ってあきらめてもらおう。
俺たちは朝食にパンを食べる。これは昨日買ってあったものだ。食べ終わったら着替えて歯を磨く。
そして俺は準備を終えた。
俺たちは外に出る。
「わらわは今から狩りに行ってくるのじゃ」
そしてフォールフィーは町をでていった。それにしても張り切っているな。よっぽど『とんがりの里』が効いているらしい。
俺はギルドの方へ行く。依頼を取得するためだ。依頼がなくても倒した魔物を持っていけば換金はしてくれるが,やはり依頼になっている方が報酬が多い。
この辺りに出る魔物はフォールフィーが倒してくれるだろうから,たくさんの依頼書を一気に取ってしまおう。
そしてそうおもっていた時,そいつらは突然やってきた。
「止まれ,そこの男」
そんな声がする。俺が振り向くとそこには騎士が数人いた。手には槍を持っていて何やら物騒だ。
「あの,どうかしましたか」
「君はヒロキだな」
「そうですが」
「ご同行願おう」
(弘樹,これはどういうことでしょう。それにアポもなしにやってくるなんて失礼です。焼き払いましょう)
おいおい,いきなり物騒だぞ。それにこいつらからは正義感は感じられても俺に対する悪意は感じられない。すこし行ってみようかな。
(分かりました)
そして俺の前と後ろに騎士が付く。どうやら無理には拘束しないらしい。だがこれではまるで俺が何か犯罪を犯したみたいではないか。少し恥ずかしいな。
俺が連れていかれたのは町の中心にある騎士団駐屯所だった。
俺が騎士団駐屯所の前まで来ると前にいた騎士が横へはける。そして後ろの騎士は持っている槍で俺を押してくる。どうやら入れと言っているようだ。
俺はこんなところで反抗してもしょうがないので,素直に従う。
中に入ると,そこは連たちが作戦会議していた時とはうってかわって,物がいっぱいあった。
壁には鎧が,床にはじゅうたんが敷き詰められている。そして部屋の一番奥には,偉そうに,大柄の騎士が座っていた。
その騎士はおもむろに口を開く。
「君が,ヒロキ君だね」
その声はただ少しの言葉しか発していないのに恐ろしい印象を与えるものだった。
「そうです」
「よかったよ。部下たちが手荒な真似をしなかったかな」
なんだ,こいつは。ただ今までの騎士と違って俺を丁重に扱ってくれている。
手荒な真似か。少しされた気もするが,ここは騎士たちのことをかばってやるか。みんな怯えているしな。
「大丈夫です。すこし強い口調で言われましたが,ぜんぜん平気です」
「そうか。それは良かった。部下たちを叱らなくて済むよ」
周りの騎士たちはほっと胸をなでおろした。
「そうだ,私ばっかり話してしまったね。すまないすまない。ヒロキ君から聞きたいことは何かあるかな。できるだけこたえようとも」
「では,まずあなたの名前を教えてもらってもいいですか」
「これはすまなかったね。私としたことが名乗り忘れるとは。私はこの国の騎士団長ベル・ジガルテだよ」
ベルさんか。いい名前だな。それに騎士団長か。偉そうだ。ゴマでもすっておくか。
「そうなんですか。いい名前ですね。で,俺をここに呼んだ理由を聞かせてもらってもいいですか」
「分かったよ。今日君をここに呼んだのは,君の持つちからについてだ」
やはりか。俺は最近俺の力が普通の人より強いということを知ったんだ。だから予想できる。だからきっとこの人は,俺に攻撃を仕掛けてくるはずだ。
この国の脅威になりそうな人を放っておくはずがないもんな。だが大丈夫だ。いつでもこい。返り打ちにしてやる。
「俺の持つ力ですか」
「そうだ。君の持つ力は強大だ。だから我が国としてもみすみす見逃すことはできないんだ」
やはりか。なら攻撃を仕掛けてくるタイミングはおそらくもうすぐだな。
「だから,私たちはある方針を取ることにする。ヒロキ君,君を⋯⋯」
くるっ。
「我が隊の仲間にしたい」
あれ? 仲間? どういうことだ。
「驚いた顔をしているな。もう少し詳しく説明しようか。私たちは君の力を聞いた時,君の力を野放しにはできないという結論になったんだ」
「それでいっそ仲間にしてしまおう,と」
「そういうことだ。具体的な君のやることだが,基本的に何もしなくていい。だがこの国から出ないでくれ。それと君に監視員を一人つけさせてもらおうか」
なるほど,なるほど。だいたいはつかめたな。
「分かりました。そういうことなら,
―――お断りさせていただきます」
その瞬間騎士,そしてベルさんの顔が驚いたものに変わった。
「なぜだ。なぜ君はここで断るのだ。断ってもいいことはないはずだぞ」
なぜ断るのか,か。それは単純に行動が制限されるのが嫌なのだ。それに俺はこれから炎竜王決定戦に得なければいけない。
竜王の祠がどこにあるのかは知らないが,多分この国の中にはないだろう。
そう言った理由から俺はこの国から出れないのが嫌なのだ。それに今はこう言っているが,俺はきっとこの国に脅威が襲い掛かったときは戦わなければだめだろう。
「理由は色々あるのですが,今は言えません」
俺が今断ったかえらここで殺されるかな。でもそしたら返り討ちだ。
だが現実はそうはならなかった。
「そうか。それは残念だ。こちらとしては問題ない条件を出したはずだったのだがな」
まじかよ。俺的にはかなりきつい条件だったがな。
だが待てよ。この国はどうやら大国っぽい。そしてその大国の騎士団と不仲になるのは良策ではないかもしれないな。
これからの行動に障害が出るかも知れないしな。ならここはどうにかして仲良くなった方がいかも知れないな。
「あの,俺としてはこの国から出られないという条件がきつかったのですが,その代わりとは言っては何ですが,お互い困ったときには協力するみたいな条件はどうですか」
これでどうだ。確かにこれだとこの国の困ったときには俺は力を貸さないといけないが,この国も俺が困ったときには俺に力を貸さないといけなくなった。
もしこの条件が通ればこの国は俺に対して嫌がらせできなくなったことになる。
「ほう。その条件なら飲んでくれるというのか」
「はい」
「そうか。それならこちらとしても願ったりかなったりだ」
よしきた。向こうが俺の思惑に気づいているのかはわからないが。
「それでは約束決定ですね」
「そうだな。だが本当にいいのか。君はこの国が危機に陥ったら守らなくてはいけないのだぞ」
「かまいませんよ」
「では確認をするぞ。君は私たちの監視を受け,且つ相互緊急事態には協力体制を取る,だな」
「はい」
そしてベルさんは俺にある羊皮紙を出してきた。そこには何やら文字が書かれているようだ。
「これにサインをしてくれ」
これはなんだ。もしかしてこれにサインをすると契約みたいな感じになるのか。
(そうですね。この羊皮紙には契約の呪文がかけられています。そして書いてある内容は先ほどこのベルという人物が言った内容のようです)
そうか。それは良かった。それにしてもこの中にその魔法が使えるやつがいるんだな。警戒しておかないと。
おっと,そうだった。この羊皮紙にサインだったな。これは,ヒロキと書けばいいのだろうか。
俺は騎士から羽ペンをもらうとその羊皮紙にサインをする。すると羊皮紙が光り,そのまま消えた。
これで契約完了って感じかな。
「ありがとう,ヒロキ君。それでだが,今後のことについて話し合おうか」
だがベルさんがそういった時,駐屯所に騎士が転がりこんできた。
「大変です。南の方角に巨大な竜巻,雷の発生を確認しました。その災害レベルはAです」
「なんだと。それは,俺が行かなくてはいけないレベルじゃないか。今は来賓中だというのに」
あれ,もしかして俺の仲間が迷惑をかけたかな。まあ,多分大丈夫だろう。
だがこれは俺も行った方がいいのかな。嫌だな。
そしてベルさんはこっちの方を向いた。
「すまない,ヒロキ君。私たちはこれから用事が出来てしまったよ。詳しいことは後々騎士を向かわせるからその時に聞いてくれ」
そしてベルさんは出て行ってしまった。騎士もどんどん出ていく。
さて,俺はどうしたものか。とりあえず,冒険者ギルドに行くか。
(弘樹,もう昼の時間です。おなかをすかせた災害が帰ってきますよ)
そうだった。じゃあそろそろ宿に戻るか。
俺は南にむかって歩き出した。