050話 風龍王は強かった件
(弘樹,あれは,もはや先ほどの風竜王ではありません)
ああ。間違いない。俺は風竜王を見ながら言う。
だが,あれはいったい何なのだ。見た感じ雷を体中にまとっているが。
(おそらくあれは,雷神です。そしてフォールフィーは今大気中の魔素を自由に使えます)
雷神,か。それってつまり⋯⋯。
(はい。弘樹の炎神の雷バージョンかと思われます)
なるほど。つまり今の俺と同じ状態ってことか。
そして俺はその雷の化身を直視する。
「驚いたかの,わらわの姿に」
そんな声がした。
「ああ。すごく驚いているよ。まさかお前もその技を使えるとはな」
「わらわは風竜王。このくらい使えて当然じゃろうて」
「そうか」
そして俺たちは同時に動き出す。
フォールフィーの雷魔法がヒロキに迫る。ヒロキは固有結界で燃やし尽くすそうとする。
そして雷が固有結界に近づいた時,空気が変わった。ヒロキは自身の勘に従い,一気に避ける。そしてその雷はヒロキの固有結界にあたったのにも関わらず燃えつきていなかった。
「どういうことだ」
ここで初めてヒロキはあたりを見回す。
見ると辺りには竜巻ができ,雷がゴロゴロとひっきりなしになっている。
「まさか,これは⋯⋯」
「そうじゃ。わらわの固有結界じゃ。その名も風雷暴域じゃ」
(弘樹,この固有結界の鑑定がすこしできました)
そうか。よくやった。
(そしてこの効果は,風,雷魔法の強化です)
それだけか。
(はい。ですがその強化の幅が異常でおそらく強化された魔法は弘樹の固有結界でも焼き切れないと思います)
なんだと。それでさっきの雷魔法には効果がなかったのか。だが厄介だな。俺はあいつの魔法を避けるしかないのか。だったら,今度は速さで勝負だ)
「炎神加速」
そしてヒロキは炎神と引き換えに圧倒的素早さを手に入れる。前からは風魔法が近づいているがヒロキの動きにはついてこれないようだ。
「ほう。わらわの固有結界に対して最適解を見つけおったの」
そしてヒロキは迫りくるいくつもの魔法をかわしていく。これにはフォールフィーの魔法でも打つ手がないようだ。
そしてフォールフィーは動き出す。
「魔法でとらえられないのならばわらわがとらえてくれるわ」
そして雷の化身はヒロキにむかってくる。その速度は炎神加速を使ったヒロキに迫るほどだった。
そいて空中を二体の龍が駆け巡る。ときにはぶつかり,時には追いかけあい。
空中戦闘技術ではフォールフィーの方が若干上であった。今までにした空中戦の経験の違いをまざまざと見せつけている。
たいしてヒロキは圧倒的攻撃力でそれを補っていた。フォールフィーの攻撃が何発かあたってもヒロキは死なないのに対してヒロキの攻撃は一発でも当たれば即致命傷だ。ヒロキはそこを生かしてうまく立ち回る。
フォールフィーがヒロキに接近する。
だがヒロキはフォールフィーとぶつかる直前に方向転換してかわす。そして今度はブレスを放った。
それはフォールフィーにぶつかりそうになるがひらりとかわされる。
そしてお返しで風のブレスを返される。
だがそれは空を切る。
そんな戦闘がさきほどから繰り広げられていた。
そして⋯⋯
(弘樹,この固有結界の鑑定が完全に終わりました。今なら解除できます)
均衡が崩れた。
ヒロキは急に空中で止まる。そして空間を,燃やした。
「な,何をするのじゃ」
フォールフィーの,いやヒロキの固有結界までもがヒロキの魔法で燃やされていく。そして残ったのは太陽と雷だった。
「おぬし,血迷ったかの。いままでわらわが攻め切れていなかったのはおぬしの固有結界があったからじゃ。それをみすみす壊してくれるとはの」
そしてフォールフィーがヒロキに襲い掛かってくる。どうやら自身が接近して一気にかたをつけるようだ。
ヒロキは動かない。フォールフィーは先ほどの魔法で疲れ果てたのだと理解する。
そしてフォールフィーがヒロキにぶつかる瞬間,空中が爆発した。
それはフォールフィーとヒロキを巻き込む。
「なんじゃこれは。いったいどこから。じゃが雷神となった今,この程度でわらわはたおされんのじゃ」
フォールフィーはヒロキの姿を,赤い龍の姿をさがす。なぜか今もなお爆発は続いている。視界は炎で真っ赤だ。
そしてヒロキはどこにもいなかった。
「どこじゃ,ヒロキはどこじゃ」
そして見つける。見ると自分の腹の上に一人の竜人が立っているではないか。
そしてその少年は腕を大きく振り上げた。もちろんその腕には炎を,この爆発の中でも明らかに温度が高いとわかる炎をまとっている。
「や,やめるのじゃーーーー」
そしてその腕が振り下ろされた。
ドゴーーン。
爆発の中にもう一つ爆発が起きる。そしてヒロキの腕はフォールフィーの腹を,貫通した。
◇
爆発が収まると俺は空中で止まっていた。
いやぁ,良かった。フォールフィーが俺の策にまんまとはまってくれたよ。え? 何をしたかって? それはずばりさっき放った竜獄の不滅炎が戻ってきただけだよ。
本来竜獄の不滅炎は対龍最終兵器と言われているくらいだし,何かにあたって爆発するまでなくならないんだ。そしてある程度なら自由に操れる。俺はそこを利用したのさ。
でも気づかれたら避けられるから全力で隠ぺいした。まあ,隠ぺいしなくても炎の大技を放った後だったから辺りには炎の魔力がたくさん残っていて気づかれなかったと思うけど。
で,そして操った竜獄の不滅炎をうまいことフォールフィーにぶつけてその後竜人になって殴ったんだ。いやぁ,炎魔力操作ってほんとに便利。あ,今は灼熱の王の一つの権限だけどね。
そうそう,この竜人だけど,完全に人間の時より身体能力が高いんだ。すこし前に知って強敵と戦うときはこれにしている。それに竜人は翼があるから龍にならなくても空中でとまれるんだ。これも便利だよな。
そして俺はあるものを見つけた。それは重力に従って落ちていく少女だ。俺は少女のところまで飛んで行く。どうやら気絶しているようだった。
いやな予感がするけど,少女が落ちていたらなんとなく助けるよな。そう,これはしょうがないのだ。
そう自分に言い聞かせて俺はその少女を抱きかかえる。通称お姫様抱っこ,というやつだ。
俺は地上に降りたった。そして重大なことを思い出す。
あ,どうしよう。連にも立夏にもカウラにも魔人にも俺が龍なこと言ってねぇ,と。俺,ちゃんと説明できるかな⋯⋯。
これから毎日更新できないかもです。クオリティーは保っていきますのでよろしくお願いします。