049 風竜王と戦った件
(散れ,小さきものたちよ)
そんな声が戦場に響く。
これは,まずいな。
見ると俺以外のみんなは魔法が爆発したところ,正確にはそこにいる強大な龍をみている。動きが止まっているようだ。これはどうにかしないと,まじで死ぬ。殺される。
だが以外にもそこでリーダーシップをとってくれたのは連だった。
「みんな,正気に戻れ。そこの魔族さんも。カウラさんも今は逃げるんだ」
そしてそれで正気に戻ったカウラさんたちはいまだ唖然となっている騎士を連れて撤退していく。どうやら龍は逃げるのを見逃してくれているようだ。さて,俺はどうしよう。俺も逃げられたらいいんだけどな。
「おい,ヒロキ。お前も早くこいよ」
そんな声がする。はっ,俺はどうするか,か。そうか,俺のなかでとっくに答えは出ていたな。
「連,さきに行っていてくれ。俺は少しやることができた」
その言葉を聞いた連は何かを察してくれたようだ。
「なっ。そんなのだめだ」
「連,行ってくれ」
「弘樹⋯⋯」
そう言って連は撤退していく。そしてタイミングを合わせたかのように龍が動き出す。
「ぬふふふふ。準備はいいかの」
目の前に現れた緑色の荘厳な龍はきれいな,そして少し幼い声で語り掛けてきた。
まさかしゃべるとは⋯⋯。でも俺も龍なのにしゃべれるから人のこと言えないか。
(弘樹,こいつ間違いなく風竜王です)
ああ,知っている。この,圧。間違いない。それにしてもなんで風竜王が⋯⋯。
「今,なぜわらわがここにいるか,などと考えたのかの」
ちっ。まるわかりか。
「そうじゃ。わらわにはまるわかりじゃ。して,わらわの目的じゃが,おぬしと戦いたいのじゃよ」
ほう。俺と戦いたいのか。でもなぜだ。なぜ俺なんかと。
「それはおぬしが,強いからじゃよ」
そうか。なら,しょうがないな。ってなるか。何が戦いたいだよ。お前は戦闘狂か。それに強い奴なら俺以外にもいっぱいいるだろ。
「そうかの。じゃがわらわはおぬしと戦いたいのじゃ」
そう,か。こいつは風竜王。下手にごまかすより戦った方がいいのか。しょうがない。
(弘樹,戦うのですか。相手は風竜王です。勝てる確信は⋯⋯)
ああ,そうだ。こいつに勝てる確信は,ない。だが,俺に戦わないという選択肢はないな。
(わかりました。もとはと言えば風竜王の接近に気づけなかった私の責任。全力でサポートします)
ああ。それに今回は,正真正銘,全力だ。
そして弘樹は人化を解除する。あたりを魔素のきりが覆い,はれるとそこには,一体の赤い龍がいた。
「ほう,やはり,おぬしできるな。わらわの目に狂いはなかったのじゃ」
「そうか。だが戦闘に言葉は不要。行くぞ」
そして二人の,いや二体の龍がぶつかり合う。
弘樹は高速でMPを練る。もはやそこには風竜王へのへ加減などみじんもないようだ。
「そうだ,風竜王。お前の名を聞いておこうか」
「そうじゃの。わらわは風竜王フォールフィー。そしておぬしは⋯⋯」
「炎龍ヒロキだ」
「そうかの。それはいい名じゃ
ドゴーーン。
の,う!」
ヒロキの炎のブレスがフォールフィーの言葉を遮った。もはや二体は殺し合う仲。容赦はしない。
そしてフォールフィーも動き出す。正確にはその場から消えた。少なくともヒロキにはそう見えた。
そしてヒロキの後ろに出現する。
チッ。
そう舌打ちするとヒロキは自分の周囲に炎をまき散らす。もちろんそれには破壊効果もつけてあり,これにはフォールフィーも撤退を余儀なくされる。
「さすがじゃの」
二体の龍は羽ばたき始めた。
そしてフォールフィーもMPを練る。魔法の準備をするようだ。
「さて,おぬしはどこまで耐えられるかの」
そして空を切り裂く真空の刃が放たれる。
その数は一や二ではない。空は真空位の刃で埋め尽くされる。そしてその本当の恐ろしさは隠密性にあった。
フォールフィーの攻撃はシーですら正確に把握できない。これにはヒロキも絶体絶命,かとおもわれる。だが,ヒロキは笑った。
「固有結界,天焦灼龍」
そしてヒロキの周りは炎に包まれた。真空の刃が炎にぶつかる。
ゴーーーー。
そんな音がしてフォールフィーの真空の刃はすべて,焼き切れた。
「ほう」
そう,これこそが俺の考えた今の最強の防御能力だ。
(はい。なんと言ってもこの魔法は周りの物をすべて燃やし尽くすのですからね)
そしてヒロキが動き出す。どうやら炎をまとったままフォールフィーに接近するようだ。もちろんフォールフィーも動き出す。それは二体の龍が織りなすまさに空中戦だった。
ヒロキが灼熱の息吹を放つ。だがそれはフォールフィーには当たない。
そしてフォールフィーの攻撃も弘樹に近づくとすぐに燃え尽きてしまった。
両者に決め手がない,かと思われたがここにきてヒロキは切り札を開放する。
「発動,炎神」
瞬間,ヒロキは炎の化身と化す。さきほどの魔王戦では決して見せなかったその姿。周りの天焦灼龍とあいまって,それはまさに地上を照らす太陽だった。
夕暮れの地上が今一度明るく染まる。
地上には太陽と対峙している風の王の影がくっきりと出来上がっているようだ。
「ほう。まさか魔素を自由自在に使えるようになるのかの。これは,わらわも本気を出せそうじゃ」
フォールフィーは自身の切り札も切ろうとする。だがそれはその場にいた太陽の化身が許さないようだった。
ヒロキの周りの固有結界が一時的に消える。
フォールフィーは困惑するが,これを好機とみて攻めようとする。だができなかった。
もしこの場でフォールフィーが攻撃をしていたら勝負は早く終わっていただろう。だがフォールフィーもこの世の最強の一人。その勘も人並み外れていた。フォールフィーは目の前に風の壁を張る。もし彼女の勘が正しければ風の壁など気休めにしかならないが,それでもないよりはましだ。
そして時は来た。ヒロキの扱う魔素が膨れ上がる。
「な,なんなのじゃ」
ヒロキの扱うMPは風竜王を持ってしても異常。そしてヒロキの切り札が放たれた。
「竜獄の不滅炎」
そんな声が聞こえた。そしてすさまじい数の炎の塊が放たれる,対龍最終兵器。それは一つずつが通常の龍の最終兵器。いや,もっとかも知れない。
その火力はシャルドをはるかにしのいでした。
だがフォールフィーはそれを避ける。かつてヒロキが行ったように圧倒的速度でかわしていく。そして来る全てをかわし切った。
そしてフォールフィーはヒロキの
「集熱覇天滅却砲」
という声を聞いた。
「な,何なのじゃ。あれは」
そしてヒロキから一直線に極大の炎の柱が立つ。ヒロキからだけではない。空中のいたるところからフォールフィーめがけて炎の柱が向かってきた。
それはフォールフィーに接近すると爆発した。どうやらヒロキはフォールフィーを塵すら残す気はないようだ。
そして空中に紅の花が咲いた。
これは避けられないだろう。そして一発でも当たれば即終わり。俺の勝ちが確定したかな。
(そうですね⋯⋯)
そして煙が晴れる。そこにはーー
「なにっ」
ーーー雷をまとった,本当の姿の風竜王がいた。