044話 勇者と魔窟を攻略した件
俺と連たちは魔窟の中に入った。俺が魔窟に来るのは二回目だが,やはり魔窟に入るのは緊張するな。
俺たちが入るとそこは洞窟だった。だが最初に俺がいたところよりも日本の洞窟っぽかった。天井は高く,上は暗くてよく見えない。通路の脇には水がしたっているようだ。これは魔窟うんぬん以前に洞窟としての価値があるんじゃないかな。
そして俺が洞窟を楽しんでいるとき,俺たちの前に影が現れた。魔物だ。これは俺の遊撃という役職が頑張るチャンスなのでは。
俺はその魔物に接近しようとする。だが,その蝙蝠の魔物に最初に攻撃したのは連だった。
くそう。俺が活躍するチャンスだったのに。まあいいか。これからたくさん魔物が出てくるんだし。
そしてあれから何戦かし,一階層目の攻略が終わった。今俺たちの前には階段がある。ん? 階段? 通路じゃないのか? そう思ってみんなに聞いたがみんなからこいつ何言ってんのって顔で見られるだけで終わった。もしかして俺って使えないやつみたいに思われているのか?
(もしかしたら魔窟によって下の階に行くためのツールが違うのかも知れません。龍鎧の魔窟では通路でしたがここは階段なのかも知れません。まあ,そんなことより何ですかあの人たちの態度は。今すぐに焼き殺しましょう)
いやいや,物騒だよ。まあ,きっと警戒しているんでしょ。しょうがないよ。で,魔窟によって違うのか。それはかなり興味深いな。それなら下の階に行くときも転移じゃなくて普通に階段を降りれるのかな。
そして俺が階段を降りる。なんと普通に降りれた。
やっぱり下の階にどこかに転移はしなかったな。これはもう確定であの龍鎧の魔窟が異常だったのでは? これは世紀の大発見かも知れない。ま,このくらいならだれでも見つけているか。
そして俺たちはどんどん先に進んでいく。
◇
俺は今五階層にいる。一気にここまできたのでいったんここで休憩しようという話になったのだ。ちなみに俺は座っているがなぜか他のみんなとは少し離れている。とほほ。
そして俺は今とてつもなく不満を抱えている。いや,悪いことじゃないんだけどね,いいんだけど,なんで俺が一戦もさせてくれないんだよ。ここに来るまでの間,俺たちはたくさんの魔物と戦った。だけど,全部俺が戦う前に殺されてしまっているんだ。
これは連のパーティーが優秀ってことだから,いいのかなぁ。とも思いつつ俺も全力で炎魔法発射したいなと思うのであった。
(全力ではしないでくださいね。この魔窟が耐えられませんので⋯⋯)
そして俺がだいぶ疲れが取れてきたななどと思っていると,向こうから歩いてくる人がいるのが見えた。何を隠そう連である。
どうしたのかな。もうすぐ出発かな。
「なあ,弘樹,少しいいか」
「ん? どうしたんだ。何か相談か」
「ああ」
なんだろう。俺もしかして何か悪いことをしちゃったかな。それだったら謝らないと。
気分はさながら先生に呼び出される高校生である。
そして俺と連はみんなから見えない岩の影まで来た。
はっ。もしかして連,いまから変なことを始めようとしているのか? 俺はそういうことに理解はあるが俺は異性が好きである。まさか,連っ。
「なあ,弘樹」
「俺は女性が好きだぞ」
「そうか。俺もだ。って,そうじゃなくてダナ」
ほ。良かった。俺の貞操は守られたと言ってもいい。良かった。でもそしたらなんで呼び出されたんだろう。だがこの後に連が取った行動は俺にとって完全に予想外だった。
「う,う,う,わぁぁ」
といって泣きながら俺に抱き着いてきたのだ。
まさか,こいつやっぱり。って,今はこんなこと思うときじゃないな。でもあんなに泣かなかった連がなくなんて。こいつとは長い付き合いだけど,高校に入ってから,いや中学生になってからこいつが泣くのを見るのは初めてだ。
「うー,弘樹。お前がいきていて,ほんとによかった。良かったよ」
そうか。俺は日本では死んだことになっているのか。そうか,こいつはこいつなりにいろいろ考えてくれていたんだな。
「連,ありがとう。俺もお前にあえて嬉しいよ。いままで会いに行けなくてごめんな」
「いいんだよ。お前さえ生きていてくれれば。でも,実を言うならもうちょっと早く会いに来てほしかったよ」
「すまんすまん」
俺は連が生きているのをしたのが最近なのだがここでそれを言うのも野暮という物だろう。
「俺,俺,いままでみんなを引っ張ってきたけど,ほんとにお前みたいにうまくできなくて,何度も失敗して,でもみんなを死なせてくなくて⋯⋯」
「そうか。よく頑張ったな」
もともとこいつはみんなを引っ張るタイプじゃなくてリーダーについていくタイプだ。なのにこいつはみんなを死なせたくないから頑張ってくれたんだな。こいつは悪い意味で万能だから何をやっても人並以上にできてしまう。だからこそリーダーという重圧が苦しかったんだな。
「お疲れ様。そしてこれからも頼むよ」
「ああ。お前は,弘樹は,これからこのパーティーにいてくれるんじゃないのか」
「すまない。それはできない。俺にはやることがあるんだ。だからあと少しで旅立たないといけない」
「なんで,なんでだよ。俺はせっかく親友を見つけたっていうのに,なんですぐいなくなっちゃうんだよ」
「すまない。でもこれは俺にとってすごく大事なことなんだ」
「そうか。そうかよ。分かった。じゃあ,約束な。俺がお前にかわって少しの間パーティーのリーダーをやる。だから,お前のその大事なようが終わったらすぐに帰って来いよ」
「分かった。俺はぜったい無事に帰ってくるよ」
「約束だからな」
「ああ。よし。みんながまってる。戻ろうか」
「ああ」
「だけどまずはその顔を拭かないとな。これじゃあみんなびっくりしちまうぞ」
そう言って俺はタオルを渡す。もちろん亜空間から取り出したものだ。だけど連は幸か不幸か自分のことで一生懸命になって亜空間に気づかない。
「あ,ありがとう」
そう言って連は顔を拭く。
こいつは悩んでいたんだな。初めて見たときこいつがパーティーのリーダーでかなり驚いたけど,かなり無理をして頑張っていたんだ。これはなおさら死ぬわけにはいかなくなったぞ。
そして俺と連はみんなのところに帰っていく。
◇
あれから俺たちはかなりのペースで魔窟を攻略していった。前までもかなりのペースだったがそこに俺が加わったことでより上がっている。もはやこの魔窟に出る魔物は瞬殺だ。
それにしても俺も少しはみんなに受けいられているのかも知れない。これは単純にいいことだ。これからも頑張らなくては。
いやぁ,それにしてもみんなと戦うってたのしいんだな。これはずっとここにいてもいいかもな。
決意が軟らかい弘樹である。
いや,だめだ。どちらにせよここにいたら竜王軍幹部とかいうバグキャラが俺たちのとこに来てしまう。それだけは避けなくては。
そして俺たちは大きな扉の前まで来た。ここがどうやら魔窟のボスの部屋のようだ。
「弘樹,いったん休憩を入れなくて大丈夫か」
はっ。まさかこれは俺の体調を気遣ってくれるふりをして自分が休みたいと暗に伝えてくるというやつだな。まったく,難しいことをしやがって。でも俺はしっかりと分かっているぞ。この模範解答は少し休みたいだ。
「わかった。確かにおまえかなり魔法を連発してたもんな。ちょっと休憩にするか」
あれ。おかしいな。もしかして単純に俺を気遣っていた? まあ,いいか。
俺は座る。
そして数分が経った。俺以外のみんなは装備をてんけんしたり,めいそうしたりしているようだ。
連が立ち上がる。
「それじゃあ挑もうか」
連がそういうとみんなに緊張が走る。勇者たちは今まで数々の魔窟を攻略してきたがやはりボスとなると緊張するようだ。
そして連が扉を開ける。そこには洞窟が広がっていた。壁には照明と思われる器具があったが今は消えていて,真っ暗で近く以外は何も見えない。
「洞窟か。ならゴーレムとかかな」
連がそういうと奥からガシャーン,ガシャーンと大きな音が聞こえてくる。
「これは間違いなくゴーレムやな」
陽太がそういった瞬間,このボス部屋に一気に明かりがついた。するとそこには連の言うとおり巨大なゴーレムがあった。それは普通のゴーレムではなく体中金ぴかな,かなりういたゴーレムだった。
「これは初めて見るな。だが油断はしない。行くぞみんな」
連がそういうと勇者たちは駆け出していく。それぞれが魔法や武器を準備し一斉に攻撃を開始した。
数々の魔法がゴーレムにあたる。だが効いている様子は全くない。しかしゴーレムもこちらへのいい攻撃手段がないようだ。
もしかしたらこのゴーレムは完全防御型なのかも知れないな。完全防御型は防御だけがくそ高いからな。倒すのはめんどいかもしれない。
だがきっと俺が魔法を思いっきり使えばあのゴーレムは倒せる。ただそうするとこの魔窟が壊れてしまうらしいしな。これは悩みどころだぞ。いや,待てよ。俺は遊撃だが誰かの壁役になればいいのではないか。あのゴーレムは防御型だし,あたってもそんなにダメージはないだろう。それにただの壁ならばどれだけ力を出しても問題ない。
そして俺は壁になるタイミングを見計らう。そしてついにその時がやってきた。ゴーレムが思いっきりパンチをしてそれが後衛の立夏などにあたりそうになったのだ。
いまだっ。そう思った俺は全力で走り出す。そしてパンチが立夏にあたりそうになった瞬間,パンチと立夏の間に割り込む。そばでは連がないかを叫びながら手を伸ばしていた。
ところでこれを読んでいる方は作用反作用という言葉を知っているだろうか。それは簡単に言うと何かに衝撃を与えたとき与えられたものが壁などで全く動かなかったとき,与えた衝撃がそのまま自分に返ってくることだ。
ところでこれを呼んでいる方はゴーレムのパンチの威力を知っているだろうか。ゴーレムのパンチは個体によるがゴーレムの重さとあいまってすさまじいパワーを誇っている。それはたとえ完全防御型でも変わらない。
何が言いたいのかって? それはゴーレムもすさまじい反作用を受けたってことだよ。
思いっきり俺にパンチしたゴーレムは吹っ飛んだ。その重さなど感じさせぬいい飛びっぷりだった。そして数秒後地面に激突。そこでもう動かなくなった。数秒後,ドロップに代わる。
それを見ていた連たちの感想は
「うそだろ」
だった。連なんかは完全にフリーズしている。それもそうだ。あの重いことで有名なゴーレムが吹っ飛んだのだ。そして皆の注意は当然それを起こした元凶の方へ行く。
「な,なあ弘樹。今のはなんだ」
連は恐る恐ると言った表情で聞く。
ん? 防御しただけだが。
まさかゴーレムが吹っ飛ぶとはな。でも当たり前か。ま,俺は壁役を頑張っただけだし,気にすることでもないか。俺は防御したってことだけ伝えておく。
「いや,防御しただけであんなんなるか」
いや,ほんとに防御しただけだし⋯⋯。
◇
そんなこともありながら俺たちは地上に帰ってきた。
「いやー,魔窟を攻略したっていう実感がねえ」
そう言ったのは陽太であったか。
「まったくだ」
そんな話をしていると遠くに町が見えてきた。だが待てよ。あのエンラから火の手が上がってないか? 俺は急いで連に伝える。
「煙? ちょっと待て。見てみる」
そういうと連はカバンから双眼鏡のようなものを取りだした。用意の良い,実に連らしい一面である。
双眼鏡を覗いた連は驚いたような表情をしている。
「おい,お前ら。本当に町から煙が出てるぞ」
「え? どういうこと? まさかまたスタンピード?」
そういうとみんな焦り始めた。過去に何かあったのだろうか。
「分からない。分からないがこれは急いだほうがいいな」
そういうと連たちは走り始め俺もそれに続くのだった。
まったく,この世界に来てから平和な時がないな⋯⋯。