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2.

「くさっ」「汚い」「きも」「近寄るなブス」「なんでいるの?」「死ね」

 私に対するたくさんの言葉は、全てが鋭く私を刺してきた。


 中学生の頃。私はいじめられていた。


 理由なんてほんの些細なことで、ぼーっとしていた時にクラスの中心にいる人から話しかけられたことを聞いていなくて、無反応でいたからだ。


 それを無視した、シカトだ、調子乗ってる、などと取り上げられて、いじめへと変化していった。

 今思えば理由なんてなんでもよかったのかもしれない。ただの暇つぶしだったのかもしれない。でも私にとっては惨憺たる出来事だった。

 言葉にも痛みは感じるんだ……。そう知った。


「もう、学校に来たくないです」先生にそう話した。いじめの全容を話そうとした。しんどくて、つらくて、助けてもらいたくて、苦しかった。


 けれど、残酷なため息は聞こえてきた。「あのなあ」とてもダルそうな声。

「いじめなんて、知らない。特に何かされたわけでもないだろ? 今忙しいんだ……」

 疲労感漂う先生は苛立たしげに貧乏ゆすりをして、言葉を吐き捨ててきた。

 面倒ごとは勘弁してくれという気持ちが言葉の端に見えていた。


「……」

 たしかに鋭い言葉を投げかけられただけだ。その場にいなければ言葉が形として残るわけでもないし、証拠も残らない。いじめだとはわからないだろう。

 でも……。私はこんなにも傷ついている。

 主張しようとして、

 けれど、ダメだった。


 先生はもう私に興味なんてないように、視線を外し、聞く態度ではない。目の前のプリントに目を通すのに精一杯で、わたしには無関心だ。

 あの子たちの心無い鋭い言葉は届くのに、私の精一杯の言葉は届くことなく、拾われることもないなら……。言葉を形にすることは無意味で、気持ちを吐露したって何にも変わらないんだ。

 それがわかってしまった。

 私は首をもたげ、

 それから言葉を形にすることを諦めた。

 

 高校は、中学の知り合いがいない、少し遠い場所を選んだ。

「ねえ、校長の話長くない?」

 入学式でのことだった。

「……あ。うん」

 愛想笑いは引きつった。言葉が咄嗟に出なかった。


 何気ない会話でも「ああ」とか「うん」で会話を終えてしまう。冷たい態度をとって人を遠ざけてしまう。人と話すことが怖くなっていた。

 けど、それでもよかった。話す意味なんてないから。


 だから私は、高校に入ってからも世間話をするような親しい友達を作れなかったし、作らなかった。

 宇宙人と出会うまでは。

 みんなが戸惑うなか、私にはわかった。彼女の言った言葉が。

──「よろしくお願いします。みんなと仲良くしたいです」

 朗らかに笑う、綺麗な子だと思った。


 宇宙人は私が理解していると分かった途端に懐いてきた。そして自然と一緒にいるようになり、私は入学からのひとりぼっちなんて考えられないほど翻訳家としてたくさんの人と話すとようになった。当然、彼女が誘われたことに私も付いて行かざる追えなくなった。


 勉強なら彼女の先生よりわかりやすい説明を訳して、運動なら彼女の説明する的を射た体の動かし方を訳して、遊びに行けば彼女の純真さがわかるエピソードを訳した。

 もう、うんざりだった。宇宙人といる度、心が弱い自分を苛んだ。


 話すことなんて、意味ないのに。どうせ宇宙語は伝わらないのに、彼女は律儀に話すことをやめない。話せば話すだけ、私は訳さなければならない。言葉を形にしなければならない。自分の心に向き合わなければならない。


 活き活きと宇宙語を話せるのはなぜ?

 伝わるわけがないのに……。

 私にはわからない。

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