民間軍事会社
民間軍事会社、それは軍への予算削減から始まった。
軍において戦闘任務に着くのは全体の1割程度。
それ以外はほぼ後方での補給などの任務で埋まる。
その為予算の少ない国の軍は民間に補給などの業務を委託するのが多くなった。
「だから前線でドンパチはウチらの仕事じゃ無えからなぁ! まあ安心しろ」
そう言いながら軍曹は車体に飛脚のマークの入った3トン半のトラックに乗り込んで、六郎に話をする。
六郎は青い顔で面食らって居た、何せトラックに乗る時にバックパックを運転席の後ろにある仮眠スペースに入れようと、カーテンを開けた途端にロシア製の自動小銃のAKMとご対面したからだ。
「……」
無言でAKMを指差すと軍事が笑いながら。
「マガジンは挿して無いし、薬室も空だ」
それに慌てて六郎が。
「拳銃ならまだしも! 何で自動小銃まで?!」
そう言うと軍曹がバツの悪そうな顔で。
「……この間、ギャングに荷を狙われてな」
帰りの空荷のトラックをギャングが襲った所、荷台が空の状態を見て逆上してドライバーを襲ったそうだ。
「それから武器の携帯が義務になってな、全員に配ってる」
「前線じゃ無くてもドンパチあるやん!」
ツッコミを入れる六郎に軍曹が。
「たまたまだ! たまたま!」
そして六郎には聞こえないくらい、小さな声で。
「多分な……」
そんな会話をしつつトラックは補給基地に着いた。
補給基地はトタン屋根の平屋でかなり年季が入っていた、鳩の姿がちらほら見える。
鳩は倉庫業の天敵と言える、糞で商品が汚れるし追い散らしても直ぐに戻って来るからだ。
軍曹も忌々しそうに鳩を見ると。
「また来てやがる!」
今にも腰のハンドガンを抜いて撃ちそうな勢いだ。
トタン屋根の倉庫の中に入ると、倉庫の一角に机と椅子を置いてあった。
事務机で書類をめくっている人物がこちらを向いた。
「軍曹お疲れ様です。新人の間宮六郎さんですね?」
そう言うと軍曹に何か指示を出すと、書類を持って軍曹が何処かに行った。
「……改めてようこそ、民間軍事会社へ」
そう言うとその人物が六郎に話しかけて来た。
「あっ! はい! よろしくお願いします」
そう六郎が言うと、その人物はニッコリ笑って。
「北ブロック長のメリンダです」
白人の金髪女性がそう言うと、六郎に握手を求めて来た。
六郎はドギマギしながら握手をするとメリンダを観察する。
白人系の金髪美女で、スタイルも良い。
砂漠迷彩の野外活動服にコンバットブーツのその腰にも、ハンドガンのホルスターが下がっていた。
「ハンドガンは標準装備なんですか?」
そう言うとメリンダは笑顔で。
「後で六郎さんにも支給しますね」
「ヤッパ標準装備だった!」
六郎が慌ててそう言うと、メリンダは書類を見ながら。
「これによると、六郎さんも射撃経験があると書いてありますが?」
六郎は慌てて。
「海外で観光客向けのを撃った程度です!」
「なら大丈夫! 一応研修もありますから」
笑顔でそう言うメリンダに六郎が何か言いかけると、軍曹が山の様な荷物と共に戻って来た。
「間宮六郎氏の制服を取って来ました」
そう言うと、そのまま六郎に荷物の山を渡して。
「宿舎に案内しますので、着替えてからまた来て下さい!」
そう言うとメリンダはまた書類仕事に戻って行った。
軍曹に促されて六郎は宿舎に向かうと途中で。
「……お前さん、書類にサインしただろ?」
軍曹が六郎にそう聴けば、そう言えばサインした覚えがあると答える。
「そいつは契約書だ、3年間の契約で更新するか?しないか?、本人の意思を確認するが」
そこで軍事は六郎の目を見て。
「それ以外に持ち場を離れれば、脱走とみなされる、そしたら刑務所行きだぜ!」
そう言って自分の首を切る真似をすると。
「違反するとこの国の刑務所だ……日本人なんて3日と持たん……」
何でも弱肉強食の掟で食事なんて強い者の独占らしい、囚人が死ぬのも珍しく無いと言う。
それを聴いて六郎がガタガタ震えて居る。
「ちゃんと仕事してれば問題無いって!」
軍曹が笑いながら六郎の肩を叩いた。
隣の建物が宿舎で、食堂とシャワー室などの説明を受けながら部屋に向かう。
意外な事に個室だった。コンクリートブロックが剥き出しの部屋に、ガタガタ煩いクーラーに机に椅子で終わりだ。
「私服はクローゼットに閉まって、着替えたらまず飯だ!」
食堂で先に食ってるから、後でこいと言われて、慌てて着替えを始めた。
青い上下の作業着にワークブーツ。青いキャップにイボ付き軍手が10セット。
下着と靴下は私物らしく、売店で売っている、他にも日用品から食料まで何でもある。
着替えてから食堂に行くと、軍曹が先に食事をしていた。
ワンプレートの皿にステーキとパン、パックの飲料フルーツにオレンジが乗っている、なかなかバランスが良い。
六郎もワンプレートに取って軍曹の隣で食うと、軍曹が。
「昼から射撃訓練だ、イケそうなら支給品を渡す」
それを聴いて六郎は。
「支給品?」
そう聴くと、基本的にハンドガンはマカロフ、アサルトライフルはAKMと返事が返ってくる。
「基本この2つは弾が安い。一発何十円の世界だからな」
ロシア製の自動小銃が世界にバラ撒かれるゆえんだ、寒冷地から砂漠地帯までどんな環境でも耐える頑丈さと弾の安さで世界的にシェアを独占している。
食ったら射撃場に行くからと言われて、六郎は慌てて飯を掻き込んだ。