ネットカフェ
ネットカフェで寝泊りして早数ヶ月、間宮六郎は窮地に陥っていた。
「金が無い!」
前の会社を強制的に依頼退職させられた、その時貰った雀の涙程の退職金も心許無い。
「ヤバイな、そろそろ本格的に次の仕事を探さないと」
そう思いながらネットの求人を見ていると、海外駐在員応募が目に入った。
「海外かあ、無料で行けるのは魅力あるよな!」
六郎は基本、バックパッカーの人だ。
日本で住み込みのバイトをして、資金を貯めては海外、主に物価の安い発展途上国に長期滞在する。
俗に言う"沈む"だ。
気に入った土地に逗留する。
何をする訳でも無い、現地民と同じ飯を食い、水のシャワーを浴びてダニと同じ毛布に包まる。
その為、破傷風や黄熱病、狂犬病など予防接種やパスポートの期限はチェックを怠ってはいなかった。
応募フォームを見た所、質問は全てチェックシートで進める様だ。
「なになに? パスポートの有無は……ハイだなこれは」
年齢・性別・病気の有無、予防接種の履歴と免許と資格。
全ての質問を埋めて最終確認を押すと、受付完了しましたと文面が出る。
応募して数時間後、六郎のスマホにメールが入る。
「早えな! オイ!」
送られてきたメールを見る、明日の午後に面接があるらしい。
「履歴書と写真、免許証と資格の受講証明か」
明日そちらに赴きます、と返信してから六郎は個室でブランケットを掛けて眠りに着いた。
その翌日、指定された商業施設の面接会場に向かう。
会議室の前に居た中年の男性に、必要書類を渡して番号札を受け取る。
面接は1人10分程度で六郎の番が来た。
中に入ると面接官が座っており、挨拶してから椅子を勧めらてから座る。
面接では渡航履歴、あと射撃経験の有無を聞かれる。
グアムやサイパンでの日本人観光客向けの射撃ツアーの経験を話してから、銃の種類と口径を伝える。
車はマニュアル車に乗れるのかどうか? 六郎は勿論、問題無いと答えると面接官達が顔を寄せて小声で相談を始める。
やがて話が纏まったのか、契約書の束を出してきた。
「それでは間宮さん、こちらが契約書になります」
「3年契約で日当は1万円、衣食住は会社で負担します」
「任地は某国です、寒い所は苦手と伺いましたので、比較的暖かい現場で輸送の仕事をして頂きます」
何でも日本企業から払い下げた4トントラックに乗って、物資の輸送がメインの仕事らしい。
質問が無ければサインをと言われて、六郎は書類にサインすると、面接官は書類を仕舞まった、代わりに青い野球帽と格安航空会社のチケットを出して来た。
「それではこれで現地に向かって下さい、その帽子が目印なので、着いたら必ず被って下さい」
移動中の経費として3万円の入った封筒を出して来た、行き先は北アフリカの日本企業が入っている国だ。
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六郎が部屋から出た後に、残った3人は次の面接迄の休憩を取りながら六郎の話をする。
「緊急で人手のヘルプが埋まって助かったな」
「なんか、聞いた話だと撃たれたって噂だけど……」
「書類にサインしてる以上は問題は無い」
六郎がサインした書類の一つは海外の生命保険会社の物だった。
間宮六郎が死亡した場合、保険金一億円は会社に入る契約になっている。
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六郎は商業施設を出ると空港に向かう途中で暫く食えなくなる日本食を堪能すると、その日の最終便で、まずはインドに向かう。
格安航空券は長距離は直行便はほとんど無い。2、3カ国トランジットしてから向かうのが殆どだ。
目的地の北アフリカに着いたのは3日後の早朝、夜も開けないうちに辿り着いた。
「流石に疲れた……」
重い身体を引き摺る様に入国審査を通ってゲートを潜ると、バックパックから青いキャップを取り出して被る。
そのまま柱に背を預けて休んで居ると、声を掛けられた。
「そこのお兄ちゃん、あんたが間宮六郎さん?」
声のした方に顔を向けると、青い上下の作業着にワークブーツ、六郎と同じく青いキャップを被った中年のオッサンだった。
「初めまして、迎えに来た同じ会社の者です」
自分の青いキャップを指で指す
「私は土井って言います、皆んなからは軍曹って呼ばれてますわ」
土井の腰にはハンドガンのホルスターが吊ってあった、蓋があるタイプで中身は見えない。
「軍曹?」
鳩が面食らった様な顔の六郎を見て軍曹が、
「お兄ちゃん……自分の入った会社の内情を知らんのか?」
やれやれと言った顔で苦笑する。
「ようこそ、民間軍事会社へ!」
ポカンとした六郎の顔が、軍曹の言葉の意味を理解すると顔面蒼白になる。
「聞いて無いよぉ! おおおおおおお~!」
間宮六郎は異世界開拓地物語にも出て来るキャラクターです。