間宮六郎の過去
孤島は多彩な果樹園がある。
その中の1つのオリーブ園にロックとナターシャは来ていた。
「オリーブオイルだけは、収穫して絞らないと」
手に入らないからねえ、ナターシャはそう言いながら、シートにオリーブの実を落としていた。
確かにそうだわ、と言いながらロックも実だけ回収して袋に詰める。
ナターシャに連れられて、昔、絞りをしてた建物に入ると、石で出来た絞り器が置いてあった。
目の荒い布に入れたまま、石と石に挟む様に絞ると、オリーブオイルが滲み出てくる。
それを難破船から回収した、容器に入れると納屋として使っている場所に置いて行く。
容器が10を超えるまでに、1週間費やした。
冬が来るまでにやる事は山ほどある。
獲物を狩って保存する、ナターシャは割とすぐに射撃を覚えた。
「弓なら使ってたからねえ」
石弓という、現代でいう所のクロスボウ、狙って撃つ動作は共通している為か飲み込みが早い。
畑のジャガイモや、サツマイモ。
果樹園のオレンジなども、収穫しては納屋替わりにしている家に運んで、冬に備える。
やがてこの孤島に来てから2回目の冬が来た。
暖炉の側にナターシャは、織り機を運んで来た。
木枠は残っていたので、糸は難破船から運んで来た物を使って、ポンチョやセーターなどを編んでいる。
ロックは木の蔓を使って、背負い籠などを作って時間を過ごしていた。
一区切り付いたので、お湯を沸かして食事の支度をしていると。
「アンタ……何にも聞かないんだね」
いつの間にか、ナターシャが側に来ていた。
「何が?」
ロックがそう聞くと、ナターシャが。
「私の事……船で何があったとか」
ロックが少し考えて込んでから。
「俺さ、昔……夜のお店で働いてた事があって」
女の人が男にサービスする、いわゆる泡姫のお店の話をして。
「色んな嬢が働いてて、借金返す為とか、金貯めて起業するって嬢とか、色んな嬢が居たんだけど」
その時の男の従業員のルールで。
「過去は詮索し無い、嬢には手を出さない」
それからナターシャを見てから。
「話してくれる迄は待つよ……俺も自分の話とかして無いし」
そう言うとロックは自分の過去の話をし出した。
俺の親は寒村の出身でね、兄弟も多いから、仕事のある場所に移住したんだよ。
俺の子供の頃は、結構幸せだった、親戚も近くに居て、両親は同じ場所で働いてて。
でも……働いててた場所が潰れちまってね、両親2人とも収入が無くなって。
俺は施設、こっちで言う教会かな?、そこに入って暮らしてて……でも、ある年齢になると、その施設からも出なくちゃいけなくて。
俺は軍に入る事にしたんだ、飯が食えて、住む場所があって、給金も貰えるから。
そして軍で何年が過ごすうちに、上官に言われたんだよ。
「資格を取って見ないか?」
色んな資格を取って、隣に置いてるだろ?トラック。
あれも動かす資格も取って、そのうち人が怪我をした時に。治療する資格を取る為に俺は勉強してて。
あれはその途中で、休暇が来た時に外に飲みに出で。
そろそろ帰ろうとした時だった、女の人が酔った男達に絡まれてた。
仲裁に入ってたら、男が殴り掛かってきた!
俺は避けてから、男を拘束すると男の仲間に背中を蹴られた。
それから乱闘になってから、警察が来た、その時には絡まれてた女の人が居なくなっていた。
男達は、俺から喧嘩を売ってきたと言い、間の悪い事に、俺の身分がバレるとメディアがこぞって叩いて来た。
自衛官、酔って一般市民に乱暴。
自衛隊内でも問題になり、俺は辞めるしか無かった。
それからは、何でもやった、酪農のバイト、トラックの運転手、泡姫のボーイ。
そして金が貯まると、格安航空券を買って物価の安い国を訪れては、金が無くなると日本でバイト。
「そしたら、いつの間にか無人島で漂流記……」
ナターシャの方を見ると、苦笑しながら。
「まさか……異世界まで流されるとはなぁ!」
その日の夕食が終わって寝ていると、ベッドにナターシャが入って来た。
「どうした?」
ロックがナターシャに聞くと。
「ここが奴隷商人に襲われた時に……」
皆んな、バラバラに逃げた。
私は、他の人達と船で大陸に向かって、陸に着いてから、皆で隠れ里を作って暮らしていた。
「でも、今度は大陸にいた奴隷商人に捕まって」
帝国に売りにだす為に船で運ばれた。
ロックがナターシャの方を見ると。
「帝国?」
ナターシャはコクリと頷くと。
ここ80年程で出来た国だ、奴らは肌の白い女を集めている。
「船で運ばれている最中に、船員の相手を……」
ナターシャを見ると、目に涙を溜めてロックを見ていた。
「何人も…….何回も……させられて…」
ロックはそっとナターシャの涙を拭き取ると。
「初めて、ナターシャを見たとき……」
なんて綺麗な人なんだろう……そう思った。
そう言うとロックはナターシャを優しく抱き締めると。
「今でも、そうだよ……本当に、綺麗だ」
その晩、ナターシャは孤島に帰って来てから、初めて深く眠った。




