ep.95「ビデオ」
「あ、いたいた。はい、これ」
水樹さんが部屋の中に入ってくるなり、数枚のメモリーカードを渡してくる。
小首をかしげながら水樹さんの方を見ると、懐の中から小さな監視カメラを取り出して言った。
「ちょっと前に言ってたでしょ? 監視カメラでも付ければどうかって」
「あ! あのときのですか」
えっちな本を読んでいたときに話していた、水樹さんのお父さんとフールの関係が怪しいという奴だ。
監視カメラを付けるよう助言していたが、すっかり忘れていた。
もぞもぞと体を動かしながら正座をし、メモリーカードを見つめる。
「録画データ、見といてくれるかしら。変なことしてたら言ってちょうだい」
水樹さんがそう言いながら、扉に手を掛ける。
「あれ、どこか行くんですか?」
「ええ。ちょっとヴォランに呼ばれてるのよ」
そう言って、水樹さんは部屋から出て行った。
まあ、そっちのほうが好都合だ。
扉に鍵をかけ、メモリーカードを一枚、部屋の中に英史が置いているプレイヤーのスロットに入れる。
電源ボタンをカチリと押すと、プレイヤーに暗い部屋の映像が映った。
「寝室か……しっかりとチェックしないと」
ベルトを少しだけ緩めながら、食い入るように映像を見つめる。
映像には、枕が二つ置かれたキングサイズのベッドが一つ映っていた。その近くの机には……写真だろうか。水色の髪を生やした女性が、写真立ての中に入っていた。
しばらくすると、水樹さんのお父さんが映像の中に入ってきた。
ベッドに腰掛けて、写真立てを手に取る。
『……』
無言のまま写真立てを見つめ続け、十分は経った頃だ。
突然立ち上がり、映像の外に消える。
再び現れたときには、大量の青い花が入った白い花瓶を持っていた。あれは、多分アジサイだ。
『……我が家も、少しだけ賑やかになったよ。のりえも元気になったし、新しいアルバイトの子も、おっちょこちょいだけど……』
写真立てを優しい手つきで触りながら、小さな声で話す。
『お前がいたらもっと賑やかだったんだろうな……。それとも、それは、贅沢すぎる願いなのかな……?』
写真立てを机に置き、部屋の電気を消す。
そこからは何も音沙汰なく、暗い映像が延々と続いているだけだった。
ベルトを締めなおし、メモリーカードをプレイヤーから抜く。
邪な気持ちを持って見ていた自分が心底恥ずかしくなった。
水樹さんに謝ろうと思って部屋の中で待っていたが、その日、水樹さんが戻ってくることはなかった。
改善点などあればご指摘いただけると嬉しいです。