ep.94「ダイナミックな宴会」
「わーっはははははっは!」
フュジさんがステージの上で腹踊りをする。が、脂肪がまったくない引き締まった体のせいで全く顔ができていない。あれではただの化け物だ。
一区切りついた記念ということで、いつもケチっている隊長が珍しく宴会場を貸切にしてくれた。酒や食事代も全て侵略隊が持ってくれるということらしい。
「ゴミ! ワシじゃできんからお前来い!」
「ふん。私が貴様がするような下賎な踊りを見せろだと……? 見せてやる、これが本当の腹踊りだ!」
ゴミがステージの上に上がり、見事な腹踊りを見せる。あれは相当アルコールが入ってるな。
その様子を見たパズルさんが空の酒瓶を投げつけてゴミを気絶させる。ワンワン子のときのことをまだ根に持っているようだ。
近くにあった刺身を箸で掴んで食べ、ジョッキに注がれたビールを一気飲みする。
喉をシュワシュワと刺激しながらビールが通り、喉を潤わせる。
「ん~……しかし……」
息を吐きながら、宴会場の中を見回す。
水樹さんは酒を飲んで荒れ狂っているが、プフェーアトさんが何とか抑えている。あの様子なら、マイクロビキニの早着替え芸は起こらないだろう。
それより、班長の姿が見当たらない。
「フハハハハハッ! 貴様、名は何と言うのだ?!」
隣に、腕に黒い包帯を巻いた人が座ってくる。
まーた変な人が近づいてきたのか。
「永宮です」
「そうか! 我の名前は黒川 龍一郎!」
「知ってます」
ビールを満杯に注いだジョッキを渡すと、黒川さんは一瞬でそれを飲み干した。
こちらも負けじとビールを飲み、机にジョッキを力強く置きながら言った。
「黒川さん、班長がどこにいるか知ってますか?」
「テュエマタールのことか? ふーむ、少し探してやろう」
黒川さんが地面に手を置くと、指の先から小さなネズミが数十匹を超える数が出現し始める。
チューチューと小さく鳴きながら、宴会場のあちこちに走り去っていった。
「何ですか今の?!」
「我の武器は、十秒の間何でもできる、だ。その間に生やした手や出した物は、十秒を過ぎた後も残り続ける。つまり、我は十秒間だけこの世の神になれるのだ!」
大声で叫びながら、決めポーズを取った黒川さん。
本人がアホな言い方をしているせいで弱く感じるが、相当強い武器のはずだ。
というか、この人がダイヤでも出せばいちいち稼ぐ必要はないのでは?
「む、いたぞ。見るか?」
「あ、見させてください」
黒川さんが右手を振ると、小さなモニターが現れた。
そこには、顔を赤らめながら緊張している班長と、薄い緑色の髪を生やした総帥が立っていた。
ここは多分、宴会場のバルコニーだろうか。空に満月が浮かんでいる。
『えっと、その……スール』
『どうしたんだ? テュエマタール』
総帥の名前、スールって言うのか。初めて聞いた。
二人が見つめあいながら、徐々に近づいていく。恋愛ドラマでも見ているかのような気分だ。黒川さんも興味ありげにモニターを見つめている。
『……ふふっ。あの月に居た頃が懐かしいな』
『そ、そうだね』
総帥が足を止め、月の方を見る。
何かを期待していた班長は少しだけ落ち込みながらも、一緒に月の方を見た。
焦らし方がずるいぞ。これが魔性の女という奴か。
『ね、ねぇスール。ぼ、僕は君のことが――』
「なーに二人で見てんのよ!」
机の上に載ったモニターを、酔っ払いまくった水樹さんが蹴り飛ばした。
地面に部品を散らばらせながら転がったモニターは、何も映らなくなってしまった。
「あーっ! 何するんですか水樹さん! いいところだったのに!」
「なぁにがいいところよ! お楽しみはこれからよぉ!」
水樹さんが自分の服に手をかける。まずい。
手を伸ばして止めようとするが一歩遅く、一瞬でマイクロビキニ姿に変わってしまった。
「水樹さん! あなたシラフに戻ったときのこと考えてモガッ!」
「シラフなんてどうだっていいのよぉ! ほぉら、たくさん飲みなさぁい!」
口に酒瓶を突っ込まれ、無理やり酒を飲まされる。
アルコール濃度が高すぎる。何度だこれ。
視界が一気にぼやけ、頭の中が謎のテンションで埋め尽くされる。
そこから先は、自分が何をしたのか全く覚えていない。耳から入った言葉が、かすかに記憶に残ってる程度だ。
「私の魅惑のボディに酔いしれなさーい!」
「うわっ、水樹! ブッ、ブルヒヒーン……」
「プフェーアトが沈んだぞ!」
「ふむ! では私が赤い花をここで咲かせてみせよう!」
「おいコラリティ! 料理が全部ダメになるだろ、やめろ!」
―――――
翌日、全員が頭痛に悩まされた。
超加速します。
改善点などあればご指摘いただけると嬉しいです。