ep.92「終焉」
荒野に入ったところで、バイクのエンジンを止める。
ルマルが待っているといったところは、荒野にある山頂、だったはずだ。
「山といったら、あれしかないよな……」
荒野の中心に聳え立つ、小高い山。
目を凝らして山頂付近を見るが、誰かが戦っている様子はない。
剣を鞘から抜き、左足に付けた義足の調子を軽く確かめてから走り始めた。
――――
「班長!」
山頂はかなり広く、地面や岩などに戦った跡が無数についていた。
大量の血痕も地面に残っていて、どれだけ壮絶な戦いだったのかが容易に想像できる。
「永…宮……君」
山頂の向かい側で、班長が傷だらけのまま膝をついている。
剣を杖にして立とうとしているが、右の太ももに大きく傷が入っているせいで、力が入らないようだ。
周りを警戒しながら班長の横に座り、応急処置を始める。
「ル…族長はどうしたんですか?」
「ああ……何とか、相打ちにはできたよ……」
班長が、プルプルと腕を震わせながら、俺の左側の方向を指差した。
登って来た所からはわからなかったが、大きな岩にもたれかかるようにしてルマルが倒れていた。
「念のため、止めを刺してきてくれるかい……? もし嫌なら、見ているだけでもいい……から……」
包帯で体中の出血を止めると、班長は地面に倒れて気絶してしまった。無理もない。
剣を強く握り締め、ルマルの方に歩み寄る。
「ルマル……」
「ああ、君か……。申し訳ないが、この首飾りを外してくれないか」
全身に切り傷を負いながらも、ルマルはまだ意識を保っていた。
言葉通り、首にかかったドクロの首飾りを引きちぎる。
すると、ルマルは憑き物が落ちたかのような表情を浮かべ、目を閉じてゆっくりと空に視線を向けた。
「俺は、お前は絶対に見逃すことは出来ないんだ……」
「いいんだ。ただ……最後に聞いてくれないか」
ルマルが、視線を俺の持っている首飾りに向ける。
恨めしそうにそれを睨んでから、強い口調で言った。
「ヒュイド族は、私が命令して、洗脳用の首飾りを作っていたけどね……ゴホッ!」
口から血反吐を吐く。
素人目に見ても、もう長くないことはわかる。右手に持った剣を、鞘に直した。
「実際は、違うんだ……。父さんから受け継いだその首飾りも、洗脳する機能が入ってたみたいだね……まったく、笑い話だよ……」
「何だって?!」
その話が本当なら、つまり。
「ルマル、お前が首飾りをつけていたときにしていた行動は……」
「そう。私の意思じゃなかったんだ。……ドラケニクス王星にしてやられたよ」
悔しそうに空を見上げ、口から血を垂らす。
「用心するんだ……。君達侵略隊にも、絶対にドラケニクス王星に通じている者がいるはずだ……。いや、もしかしたらそいつが全ての始まりの可能性も……ゴハッ!」
先ほどよりも多い量の血を吐く。
苦しそうに自分の胸を触りながら、懇願するように頼んできた。
「殺してくれ。もう生きられないのはわかってる……」
「……」
ルマルが首を前に出し、斬りやすいように首もとの服を緩める。
ロジーのときとは違い、ルマルは絶対に殺さなければならない。侵略隊的にも、個人的にもだ。オーロさんを殺した奴の、いわば元凶なのだから。
首飾りをそっと地面に置き、ゆっくりと鞘から剣を引き抜いた。
剣を上段に構えてから目を閉じ、決心をつける。
「……すまない、ルマル」
目を開き、そう言った。
その言葉にルマルは、最後ににこやかな笑顔を浮かべ、こう返した。
「ふふっ。……こちらこそ」
――こうして、ヒュイド族との戦争は終わった。
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