ep.89「己の最善」
「……もう大丈夫なのか?」
「ええ。」
強い怒りと殺意を無理やり押し込め、冷静さを取り戻す。
フラムは地面に潜ってから、まだ地上に姿を現していない。
「あの野郎を殺さなければ、オーロさんを埋葬することもできない。けど、俺じゃ殺せない。ポルトロンさん、手伝ってくれますか?」
「当たり前だ。こう見えて……私もかなり頭に来ている」
ポルトロンさんは眉間にしわを深く刻み込んだまま、こちらを見た。
表情はさっきと変わっていないが、瞳に明らかな殺意が篭っている。
「君は奴の動きを止めてくれ。少しでいい。――行くぞ!」
突然、地面が異常なほど熱くなる。
咄嗟に飛びのくと、そこからフラムが飛び出してきた。
マグマを撒き散らしながら地面に着地し、高笑いしながら大声で言った。
「はっはっは! 作戦会議はもうお終いか?! 安心しろよ、てめぇらもすぐに逝かせてやるからな!」
フラムが再び地面の中に潜り、マグマを撒き散らしながら飛び出す。
それを繰り返しながら、恐ろしい速度で迫ってくる。
「今までの俺なら逃げて体勢を立て直すが……もう逃げない! これが俺の最善だ!」
剣を前に構え、地上に飛び出したフラムに飛び込む。
撒き散らす溶岩を剣で弾きながら、頭に向かって剣を振り下ろした。
ガァン! という岩でも斬ったかのような音を出し、フラムを地面に叩き落す。
「ぬぅぁぁあああああ!」
雄たけびを上げながら地面に転がっているフラムに斬りかかるが、左手でガッチリと掴まれてしまう。
フラムが右手を大きく開き、掴んでいる剣に勢いよく叩きつける。
赤い霧がフラムの手から発生し、瞬時に辺り一帯を埋め尽くした。
「クソッ……!」
霧の中にフラムの姿が消える。
この赤い霧、外からではわからなかったが、異常なほどの高温だ。
竜巻を優に超える速度の風が渦巻き、小さな小石が飛んでくるだけで肉が深く抉れる。
全身が十秒と経たずに火傷で黒く染まり、強く感じていた痛みが全くしなくなる。
火傷は神経がやられるほど深くまで到達すると、痛みが感じなくなる。つまり、この霧を早く何とかしないと内臓まで焼かれて死んでしまうということだ。
「っていったって、どうすりゃいいんだ……!」
息を吸い込んだだけで、肺の中が焼ける。
手のひらと剣が火傷のせいで、元々一つだったかのようにくっつく。
「何か……あっ!」
随分と前に、メノンさんに付けられた余計な機能を思い出す。
右足を前に大きく開き、剣の質量をこれでもかと言うほど大きくする。
単純な重さで数えれば、優に自動車十台は軽く超えている。
それを両手で大きく振りかぶり、
「フラム! 甘かったなぁあああ!」
空気を切る音がするほど早く振った。
巨大な質量の物体が素早く動いたことで、空気が大きく震えだし、赤い霧が跡形もなく消え去った。
しかし、かなり無茶をしたせいで、剣を振り切った後に離してしまった。
手のひらの皮膚が丸ごと剣に持っていかれ、露出した筋肉から血がボタボタと手からあふれ出す。
「てめぇ……この霧が破られたのは初めてだぜ」
フラムが飛んでいった剣を両手で受け止め、こちらに投げ返してくる。
頭の中で念じて質量を元に戻した後、口で剣を受け止める。
血が溢れる両手を眺め、覚悟を決めて目を閉じ、高温の地面に押し付けた。
「ぐぅぁああああああ!」
「なっ! てめぇ、頭おかしいんじゃねえのか?!」
両腕が形容できないほどの痛みに襲われ、口の端から涎がこぼれ出る。
心臓が強く鼓動を打ち、全身に血流が素早く走り始める。
血が止まった手を地面から外し、ゆっくりと剣を構えなおす。
「……いいや、何もおかしくない。お前を殺すためなら、なんだってするさ」
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