ep.88「殺意」
「あああぁぁぁああああああ!」
柄が曲がるほど強く握った剣をフラムに振り下ろす。
今まで振ったどの斬撃よりも速かったが、あっさりと止められる。
「はっはっは! 怒りでパワーアップでもしたつもりか?! だがな、てめぇと俺の差はそんなに浅くねえんだよ!」
剣を離し、フラムの側頭部に蹴りを入れる。
しかし、溶岩を身に纏われているせいで、逆にこちらの左足が溶けてしまった。
剣を奪い取って距離を取る。
逆手に剣を構え、口から息を吐きながらフラムに迫る。
「落ち着け!」
走り出した瞬間、ポルトロンさんに体を掴まれて止められる。
「離せ!」
「落ち着けと言ってるんだ! 闇雲に戦っても勝てん!」
身をよじって手を振り払おうとするが、全く離れない。
その様子を見たフラムが、あざ笑うように両手を広げる。
空高く飛び上がり、真後ろにあったマグマの湖の中に水しぶき一つ無く潜る。
「私と協力するんだ! いいな!」
「そんなことしてられるか! 野郎殺してやる!」
「君一人じゃ勝てないと言っている! 逆に殺されるぞ!」
瞬間、地面が異様なほど熱くなる。
咄嗟に飛びのくと、そこからマグマを纏ったフラムが飛び出してきた。
スクリューのように回転しながら溶岩を撒き散らし、再び地面を突き破って潜る。
「オーロさん!」
オーロさんの体を抱え、安全な場所まで移動させる。
胸に手を当て、鼓動を確認する。
本当にかすかだが、まだ生きている。生きているんだ。
「少……年……」
片目を小さく開き、オーロさんがかすかな声で呟く。
目から熱いものを垂らしながら、傍にしゃがんで耳を近づける。
「俺は……もう、ダメな……んだね~」
苦しそうに息を切らしながら言葉を紡ぐオーロさん。
「何言ってるんですか! 絶対に死なないって誓ったじゃないですか!」
「……選択するん……だね……正しくな……くていい、自分の、最善を……」
言い終わると、オーロさんはゆっくりと目を閉じた。
トクントクンと脈打っていた心臓が、静かに、そして永遠に動かなくなる。
「……」
目から流れ出るものを指で拭いながら、立ち上がる。
オーロさんの遺体を眺めてから、フラムのほうに振り返った。
もう振り返らない。振り返っては、ダメなんだ。
「自分の最善を、選ぶ……」
煙草の箱を、ポケットから取り出す。
数本の煙草が入っている。
一本、優しく手で掴んで取り出し、口に咥えた。
火は灯っていないが、これでいい。
「わかりました。オーロさん。」
剣を強く握りなおし、ポルトロンさんの方に向かった。
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