ep.86「燃える男」
ラーヴ星のように、辺りにマグマの湖が点々としている火山付近。
口を開けただけで口内の液体が全て蒸発してしまいそうなほどの温度で、マトモに動くことすら厳しい環境だ。
全身がボロボロなせいで、さらにキツイ。誰かと合流したいところだが……
「はーはっはっは! ここは俺の戦場だぜ、以前とは違えんだよ!」
どこからともなく、大きな笑い声が聞こえる。
溶岩が間欠泉のように噴出し、地面にマグマの水滴を散らし始めた。
ひときわ大きい水滴が地面に落下したかと思うと、スライムの様にもごもごと蠢きながら、人型に変化していった。
「ちっ……」
真横から舌打ちが聞こえた瞬間、体全体に重度の火傷を負ったオーロさんが現れる。
口に咥えている焼け焦げた煙草を吐き捨て、膝を地面につきながら言った。
「オーロさん!」
「少年……ここじゃあいつの相手は分が悪すぎるんだね~」
オーロさんが、人型に変化したマグマの方を睨む。
そいつは、俺達の方を指差しながら腹を抱えて笑い始める。
「あっはっは! てめぇ、仲間呼んだのか?! そんな弱っちそうな奴を?!」
本当におかしそうに笑うそいつ。というか、かすかにだがこいつの声に聞き覚えがあるぞ。
確か、フールのいた星で、フラムとか呼ばれていた奴だ。あの時はオーロさんに負けていたはずだが、こいつが一番強いのはこの環境なのか。
「フラム……!」
「俺の名前を知ってんのか? ……あぁ? てめぇ、確かロジーを三人がかりでやっと半殺しにしてた奴じゃねえか」
フラムは自分の頭をトントンと叩き、少しだけ納得したような素振りを見せた。
腕を組み、こちらのことを見下しながら言う。
「ロジーから反応はなし……なるほど、その爆発の跡からして、てめぇがロジーを殺ったのか。なら、完全な雑魚ってわけでもなさそうだな」
フラムが右腕を前に突き出し、手のひらを限界まで広げる。
それを、勢いよく地面に押し当てた。
「くっ! 少年!」
オーロさんが叫びながら、手首を掴んでくる。
フラムが地面を叩いたところから徐々にヒビが入り始め、赤い霧が発生し始める。
瞬間、視界がいきなり切り替わる。
先ほどまでは赤い霧が発生し始めた地面の上にいたのに、いつのまにか霧を空高くから眺めている。オーロさんが持つ、瞬間移動の機能だろう。
「少年! あいつは、二人でやっと勝てる相手なんだね~!」
「わかってます!」
「……わかったなら、早く逃げるんだね~!」
「なっ?!」
オーロさんが空中で回り始め、掴んでいた俺の体を勢いよく投げ飛ばした。
視界の中でどんどん小さくなっていくオーロさんに手を伸ばし、大声で叫ぶ。
しかし、オーロさんはニコリと笑みを浮かべながら、ポケットから煙草の箱を取り出す。
一本の新しい煙草を口に咥えてから、箱を光の粒子にして消した。
胸ポケットの中に、箱が現れる。
「オーロさん! どうしてなんですか!」
空中では、軌道を変えることもできない。
遠ざかるオーロさんの姿から目を離さなかったが、やがて小さな点になって消えてしまった。
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