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ep.85「決断」

 地面に着地し、穴が空いた左肩からあふれ出る血を押さえる。

 剣を杖にしながらよろよろと歩き、服を真っ赤に染めたまま倒れているロジーに近づく。


「……あはぁ。もう、終わりかぁ」


 口から血を流しながらそう言った。

 倒れているロジーの体に乗りかかり、剣を両手で逆手に持つ。

 首元に切っ先を当て、目を閉じる。


「ロジー……」

「……どうしたのぉ?」


 切っ先がガタガタと震え始める。

 

「人を殺すのは、初めてなのかなぁ?」


 目を開けると、ロジーが優しい笑みを顔に浮かべていた。

 ロジーの頭の横に剣を突き刺し、喉からひねり出すように言葉を出す。


「ああ、そうだよ……」

「私は正確には人間じゃないんだからぁ。だから……といっても、見た目が同じだからねぇ」


 血に濡れた眼鏡を外し、そっと地面に置く。

 自分の首元を人差し指でトントンと叩きながら、優しい声色で言った。


「かよわい乙女がしっかりと指導してあげるよぉ。……この先、自分で止めをさせないままなんて無理だからねぇ」

「やめろ……」


 ロジーが地面に刺した剣を引き抜き、自分の首に当てる。

 今までに見たことがないような、眩しい笑顔をする。


「……今の私なら、すぐ死ねるから……」

「ああ、クソッ! 畜生!」


 剣を掴んでいるロジーの手を振り払い、立ち上がる。

 胸に昇ってくる感情を、地面を強く踏んで無理やり押し込める。


「わかったよ! そんなに殺して欲しいなら……!」


 両手で剣を握る。

 ガタガタと震える手を落ち着かせるように深く息を吐き、

 ロジーに向かって振り下ろした。


「……」



 空に飛ばしたまま拾っていなかった鞘を拾い、腰に差す。剣を鞘に納め、ロジーから数歩離れたところにあぐらをかいた。

 懐から一巻きの包帯と、スプレー式の小さな消毒液を出す。おまけに鎮痛剤や麻酔、止血バンドなどもゴロゴロと地面に並べる。


 左肩の穴に消毒液を数回噴きかけ、グルグルと包帯を巻く。ピンでしっかりと包帯を繋ぎとめ、立ち上がった。


「あーあー、この包帯とか余っちゃったなー。仕方ないしここに置いていこうかなー」


 さっき剣を振り下ろしたときに斬った、ロジーの右足の細長い鉄の棒を避けて歩く。

 火山に向かって歩きはじめようとすると、背後からか細い声が聞こえてきた。


「な……なんでぇ……?」

「……これは独り言だが、気分が乗らなかったから。それだけだ」


 小さく呟き、再び歩き始める。

 背後から感謝の言葉が聞こえてきたが、きっと気のせいだろう。あのメスゴリラに限ってそんなことを言うはずがない。

 再びこんこんと降り始めた雪から逃げるように、早足で進んだ。

 

 

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