ep.83「宿敵」
「おぉぉぉおおおおお!」
喉が千切れんばかりの咆哮をあげながら、ロジーに向かって斬りかかる。
「まずは小手調べでもしておこうかなぁ!」
身を左に捻り、剣をスレスレで避けられる。
右足の義足が重苦しい音をあげながら、顎に向かって迫ってくる。
間一髪で顔を上げて避け、後方に飛びのき距離を取った。
「顎を狙うな、顎を!」
「あはぁ、お家芸みたいなものだからねぇ!」
ロジーが高笑いをしながら、恐ろしい速度で迫ってくる。
顔に放たれた右拳を剣で弾く。左の拳を地面に受け流し、その場で回転しながら後ろ回し蹴りを頭に叩き込んだ。
しかし、一切怯んでいる様子はない。義足が煙を噴出し、膝からワイヤーが飛び出てくる。
左の太ももにワイヤーの先のやじりが突き刺さり、体がロジーに向かって引き寄せられる。
「あはぁ。私とハグでもしない? とびっきり強烈なやつをさぁ」
腕の上から体に両手を回され、背中の中心で手をがっちりと絞められる。
ロジーの体格と見た目にそぐわない怪力で、強烈なベアハッグを決められてしまった。
体制的にも圧倒的にあちらが有利で、背骨を中心とした骨がミシミシと悲鳴をあげる。
「ググガッ……!」
「油断なく行かせてもらうよぉ、ほらぁ!」
ロジーが更に力を強め、体が宙に浮き上がる。
両腕の骨からピキピキと嫌な音が響き、激痛が走りはじめる。
必死の思いで、口から声にならない声を漏らしながら、右足をバタバタと動かす。
「無駄だよぉ、このまま一気に――」
「いや。あと数センチ浮かしていたらこのまま終わっていたがな」
右足のつま先を地面につけ、限界まで力を込める。
奥歯が割れそうなほど歯を食いしばり、地面を力強く踏んで飛び上がる。
空中に飛び上がられて油断してしまったのか、少しだけ力を緩めたロジーの拘束から抜け出す。
逆に、こちらがロジーの背中から体を掴み、地面に勢いよく頭を叩きつけた。
尋常ではない衝撃が走り、こちらの両腕にまで痛みが伝わってきた。ヒビが入った両腕に、さらに激痛が走る。
剣で太もものワイヤーを斬り、距離を取った。
「いったぁー……い!」
立ち上がりながら叫ぶロジー。しかし、言葉の途中で一度頭を押さえながらフラつくが、義足で地面を踏みしめながら言葉を紡いだ。
少しだけダメージが入ったようだが、それでも倒れそうにない。あいつのタフさは異常だ。
地面に剣を擦りながらロジーに近づき、右わき腹から左肩まで逆袈裟に切り上げようとする。
「あはぁ。」
右わき腹に剣があと数ミリで届くというところで、ロジーが不適な笑みを浮かべる。
全身にぞわぞわとした悪寒が走り、咄嗟に飛びのこうとするが――
雪原全体の雪が消し飛ぶほどの、大爆発が発生する。
白い光が轟音と共に雪原を包み込み、あらゆるものを吹き飛ばした。
「ゲブ……ゲホゴホ……」
口から大量の血を吐きながら、口元を裾で拭う。
自分で軽く確認しただけでも、内蔵が爆発によって大量に潰された。重要な器官は奇跡的に無事だが、それ以外はほぼグシャグシャになっている。
右手に握った剣を杖にしながら、ゆっくりと立ち上がる。
全身から血を垂らしながら、未だに煙が漂う雪がない雪原を進む。
「……まさか、あれでも死なないなんて」
ロジーが地面に倒れているのを発見する。
さっきまでついていた機械的な義足は跡形もない。恐らく、あれに爆弾が仕込まれていたのだろう。
血だらけの体で地面に転がりながら、驚いた表情でこちらを見た。
「はやく立ち上がれよ。どうせ捨て身の作戦のせいでどっちもボロボロなんだ。これで終わりじゃないだろ?」
「……あはぁ、そうだねぇ」
背中から特殊な形状をした細長い鉄の棒を取り出し、義足がなくなった右足にはめ込む。
膝の部分で簡素的にだが曲がるようになっていて、すぐにでも壊れそうだが一応は使えるようだ。
右足の調子を確認したあと、立ち上がって構えるロジー。
「もうこの際、どうなってもいいんだぁ……たくさん楽しもうねぇ、永宮クン!」
「とんでもないタフネスだな……。来い!」
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