ep.80「前夜」
リビングに、侵略隊の全班員が神妙な面持ちで集まっている。
全員一言も話さずに、ただただ静かな空気を漂わせながら立ち尽くしている。
「……先日、ついにヒュイド族の本拠地を見つけた」
暖炉の前の椅子に座ったゼバル隊長が、低い声で言った。
今までは小競り合いを繰り返してきただけだが、本格的な戦いがついに始まろうとしているのだ。
「第一チーム四人、第二チーム五人、第三チーム六人の計十五名で総攻撃を仕掛ける」
隊長が机の上にシートを敷き、丸い星のホログラフィックを出す。
雪原に火山、草原などの様々な気候が入り混じった不思議な星だ。
そのホログラフィックの、ちょうど荒野の中央にそびえ立つ山の頂あたりを指差しながら言った。
「ここが、ヒュイド族の族長がいるポイントだ。ここには、テュエマタールに真っ先に向かって貰う」
隊長の言葉に、班長がゆっくりと頷いた。ルマルに対抗できるのは班長ぐらいだから、適任と言えるだろう。
他の侵略隊の人たちも、特に異論はないようだ。何の動きも見せず、ホログラフィックをじっと見ている。
「各自、遭遇したヒュイド族は確実に息の根を止めろ。……死人が出るかもしれん戦いだ、気を引き締めろ。出発は明日! 今日の夜はしっかりと休み、英気を養うように!」
ゼバル隊長はホログラフィックをそのままにしながら、廊下の奥へ消えていった。
オーロさんが煙草に火をつけ、胸を膨らませながら大きく煙を吸った。
「……ついにですね」
「そうだね~。……死人が出るかもしれない、じゃなくて出るんだね~」
口から煙を吐き出しながら、オーロさんが言った。
水樹さんはプフェーアトさんと共に、第三チームの部屋のほうへ戻っていった。班長は、ホログラフィックを眉間にしわを寄せながら睨んでいる。
「死人が出る……確実にですか」
「まぁ、絶対とは言い切れないんだね~。百万分の一ぐらいの確率の奇跡が起こったりでもしない限り、って話なんだね~」
つまり、ほぼ可能性はゼロということだ。
誰も逃げることはしない。覚悟を決めて、各々自由に今夜を過ごすだろう。
全員で明後日を迎えられたら、どんなにいいことか。
「……」
「人間、誰しも死ぬときは死ぬ……そういうもんなんだね~」
煙草を携帯灰皿に押し付け、オーロさんも第三チームの部屋へ戻っていってしまった。
「班長」
「ああ……。すまないけど、今は一人にしてくれないかい? ……僕自身、族長と戦うのは覚悟を決めなきゃいけない」
胸ポケットから一枚の写真を取り出しながら、班長がそう言った。
背中で隠れてよく見えなかったが、あれは多分総帥の写真だ。髪が今よりも少し濃い緑色の姿が写されている。
「わかりました」
「……ごめんね。永宮君も、頑張って」
班長から離れ、月明かりに照らされた廊下の中を歩く。
コツコツと足音を響かせながら、ロジーの姿を思い浮かべる。
幾度となく会ったロジーだが、最後の戦いだ。二人きりで決着をつけたい。恐らく、向こうもそう思っているはずだ。
三対一で勝った運のいい奴、とポウニンに罵られた。紛れもない事実だ。
だが、今回は一対一で勝つ。そして、全員が生き残る奇跡を、持ち前の運で掴み取ってみせる。
両方の拳を強く握り締め、満月が浮かぶ空を眺めながら、覚悟を決めた。
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