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ep.79「たんぽぽの束」

 暗闇の中を、黄緑色にぼんやりと光るペンライトの明かりで照らしながら走る。

 

「一体どこに……」


 近場の扉を全て蹴破り、一つ一つの部屋を確認しながら駆ける。

 どこの部屋にもワンワン子はおらず、ついに裏口に着いてしまった。右手に持ったペンライトを投げ、裏口を勢いよくブチ破る。


 暗闇の中から突然日の下に出たことで、一瞬だが目の前が白く染まる。

 目を細く開きながら前に向かって歩いていると、足元で何かに躓いてしまった。


「なんだ?」


 体をかがめて、足元に転がっている何かを凝視する。

 黒いスーツにサングラスをかけた、いかにもやばそうな雰囲気の大男だ。しかし、よく見るべきはそこではない。

 右腕と左足に鈍く光る鉈が突き刺さり、肩口がバッサリと大きく斬られている。


「たんぽぽ、お好きですか? あなたの笑顔が見たくて、ここに参りました」


 視界のものが段々と色つき始め、何者かの声が聞こえる。というか、よく聞いたことある声だ。


「英史、何やってんだ!」


 助走をつけ、英史の側頭部に向かってドロップキックを決める。

 学生服の襟を掴み、思い切り裏口に向かって叩き込んだ。扉を蝶番ごと吹き飛ばしながら、暗い廊下の中へ転がっていく。


「ワンワン子さん、今すぐ逃げてください。警察でも侵略隊でも何でもいい、とにかく人が集まるところへ」


 そう言うと、ワンワン子はアイドル衣装のまま走り去っていった。

 振り返らずに、英史が転がっていった廊下の方を睨む。右手に剣をしっかりと構え、じりじりとすり足で近づく。


「……何するんだ。もしかしたら、あの子だったかもしれないのに」


 服についた埃を払いながら、英史が日光の下に姿を現す。

 袖の中から新しい鉈を取り出し、両手に構えた。


「これが今日の俺の仕事だ。意味ないと思うが一応聞くぞ。お前はあのアイドルを追っかけて、頭を採るつもりか?」

「その質問に答える必要があるか? わかりきっているだろう」


 両足に力を込め、英史に向かって駆け出す。

 地面を右足で力強く踏みながら、脳天に向かって躊躇なく剣を振り下ろす。

 しかし、両手に持った剣を頭上で交差されて受け止められる。体勢的にはこっちが圧倒的に有利なのに、全く動かすことができない。


「また力強くなってないか?!」

「あの子を探すためなら、僕は努力を惜しまない」


 英史が足の裾から鉈を取り出し、こちらの腹目掛けて振り払ってくる。

 剣を一旦手放し、足の鉈を間一髪で避ける。

 足首を掴み、真後ろにジャイアントスイングで放り投げながら、放した剣を掴み取った。


「そういうお前も強くなってるじゃないか」

「そりゃどうも!」


 英史が立ち上がりながら投げてくる鉈を弾き、男の死体に刺さっている鉈を無理やり抜き取る。

 おまけで右腕が付いてきてしまったが、しょうがない。そのまま英史に向かって投げつけた。

 

「グッ!」


 幸運だったのか、腕の千切れた部分から飛び出した血液が、英史の目に上手く入った。

 目を押さえている英史に近づき、みぞおちにボディーブローを深く突き刺す。こいつ、腹に何か仕込んでいるのか、とても硬い。代わりに、足の先で顎を蹴り上げた。


「舐めるな!」


 英史が手に持った鉈を地面に落とし、徒手空拳に切り替える。

 視界が左右に大きく揺れるほど強いパンチを顔面に決められた。お返しといわんばかりに、顔面を拳の皮膚が破れるほど強く殴る。


「英史、本気で殴ったな?!」

「お互い様だろう!」


 こちらも剣を地面に落とし、英史の頭を両手で掴む。こちらの骨まで壊れそうなほど強い頭突きを決め、腹部を膝で蹴り上げる。

 頭突きで少しだけ怯んだように見えたが、それでもこちらに向かって倒れる気配がない。タックルの様に突進され、地面に引き倒されてしまう。

 

 胸の上に馬乗りにされ、首を両手で絞められる。

 とんでもない馬鹿力で、息が出来なくなるどころか首がへし折れそうだ。奥歯を強くかみ締めて首に力を込めながら、足で英史の背中を蹴りまくる。


「さすがに頚動脈を絞めるぐらいで留めよう。殺す気はないからね」


 視界の中に入るものがぼんやりとし始め、体から力が抜け始める。指一本すら動かなくなり、目が自然と白目を向こうとした瞬間だった。


「大丈夫か! 永宮君!」


 急に息ができるようになり、ゴホゴホと咳き込みながら息を吸い込む。

 ぼんやりとしていた視界がどんどんとクリアになり始め、地面に転がった剣を拾い上げて立ち上がる。


「ゴホッ……パズルさん」

「ワンワン子は?!」

「人の多いところに逃げるように指示しました……。大丈夫だと思います」


 首を押さえながら、ガクガクと震えて力が入らない足を叩く。

 胸を何回か叩き、呼吸を完璧に整えてから英史の方を見た。


「……邪魔しないでほしいな」

「ああ、頭収集家とかいう新しく入ってきた子か……。ワンワン子の頭を採ろうとしたのか?」

「そうだ」


 パズルさんが右手に持った日本刀の血を吹きながらそう言った。


「……ああ、そうかい。死ね」


 そう言い放ったあと、一瞬姿を消したパズルさん。残像すら残らないほどの速さで、英史の右わき腹から左肩を斬りあげた。

 胸元から噴き出した血を押さえながら、地面に倒れる英史。そんな様子を見た後、パズルさんは日本刀をピースにして懐にしまった。


「一応ポルトロンを呼んでおいたから、こいつはここに置いたままでも大丈夫。ワンワン子を追いかけようか」


 穏やかな口調に戻り、そのまま道路を走っていくパズルさん。そのあとを、剣を鞘に納めながら追いかけた。



 その後、交番にいたアイドル衣装のワンワン子を保護し、無事に一千万を手に入れることが出来た。英史と再度戦うのは驚いたが、あのままパズルさんが助けてくれなければ負けていただろう。

 いつ暴走して、また戦うことになるかわからない。今よりも強くならなければならないと、心に誓った。




 

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