ep.78「豚の残飯」
ステージの上に転がりながら着地し、ペンライトの明かりを頼りにあたりを見回す。
ファンのざわめきは先ほどよりも大きくなっていて、いつステージの上にファンが乗り込んできてもおかしくないほどだ。
「ワンワン子さん、ワンワン子さん! いますか?!」
ペンライトを大きく振りながら、アイドルの名前を呼ぶ。しかし、どこからも返答が返ってくる様子はない。
無線機に手を伸ばそうとした瞬間、ステージの上が眩しいほどの明かりで埋め尽くされた。
「永宮君! ワンワン子は?!」
パズルさんが懐から何枚かのピースを取り出しながら、こちらに小走りで近寄ってくる。
ステージの上を照らしているのは、超巨大なライトのようだ。あんなものはさっきまでなかったが、恐らくパズルさんが出したのだろう。
「いえ、それがどこにも……」
「フン。そのワンワン子とかいうアイドルは私が貰ったぞ」
背後から、地響きがしそうなほど大きな音を鳴らしながら、太った男が近づいてくる。
以前どこかで会ったような気がするが、喉の辺りで引っかかって中々思い出せない。
顔を指差し、とりあえず思いついた名前を言った。
「えっと……豚の残飯でしたっけ?」
「ピッグ・ミゴ様だ。餓鬼、今のはわざとだろう」
ああ、そうそう。そういえばそんな感じの名前だった。
たるみきった腹を揺らしながら、鼻息をフンフンと出しながらゴミが話す。
「中々いい容姿だったのでな。急遽、妻として娶ることにした。あの女も私の妻となれて、こうえ――」
「あ? おいゴミ、一つ聞くぞ」
パズルさんがいつになく荒々しい口調と声色で言った。
手元で二つの細長いピースを一つに組み立てながら、ゴミに向かって近づいていく。
「俺はな、ワンワン子が自分で決めた相手と結婚するならいいんだ。逆に最大限の祝福をする。だが、もしてめぇが無理やりしようとしているなら……」
「しているなら、私をどうするのだ?」
「殺す」
パズルさんが右手に細長い、霞仕上げの日本刀を出す。
日本刀に眩いほどの光が反射し、ゴミの左腕を切り裂く。自分の腕から血が流れ出すのを見るが、ゴミはやれやれといわんばかりに深く溜息を吐いた。
「全く……第二チームの班長である私に敵うと思うか?」
「ほざきやがれ生ゴミ! てめぇは金の力でのし上がっただけだろうが!」
ゴミが、肩を持ち上がるほど大きく息を吸い込み、ピタリと止める。
肺の中を空気で埋めたまま、パズルさんの日本刀を殴りつけた。
「ぐぐっ……! 永宮、ワンワン子を探せ!」
パズルさんがゴミの拳を地面に受け流しながら、大声で言った。
ステージの地面に命中した拳は、数メートルほどの大きなクレーターを作り出す。見た目にそぐわない、とんでもない怪力だ。
地面から拳を引き抜き、穴が空いた風船の様にフシュルルと、大きく息を吐いている。
「わかりました!」
パズルさんの言葉通りに、ステージの裏に回ってワンワン子を探す。
ペンライトの明かりを頼りに、壁伝いに暗闇の廊下を走り出した。