ep.6「二階」
「ヒュイド族がこの場にいるとしたら、班長はともかく一人じゃ死ぬわ」
布をポケットに突っ込む水樹さん。
額から汗が一筋流れる。
「二階って言っても、班長が暴れてるところ突っ切るんですか?」
階段は、ちょうどスライムが切り刻まれている場所の奥にある。
「班長の剣のこと? 大丈夫よ。たとえ自分から突っ込んでいったとしても、絶対に当たらないわ」
背中を押されながら、階段に向かう。
横や上をスレスレで通り過ぎていくが、確かに自分達には当たっていない。
それどころか、周りのスライムを優先的に倒しているようだ。
無事に階段に辿り着き、二階に向かう。
「班長の剣、あれどうなってるんですか? 生きているみたいな動きしてましたけど」
水樹さんは、足を止めて話す。
「あの剣が凄いっていうより、班長がおかしいのよ。あの浮いてる剣一つ動かすのに、人間の脳みそ丸々一個分ぐらいの処理能力が必要なの。
それを六つ同時に、しかもあんな風に動かせるのは班長だけよ」
よくわからないが、とにかく凄いことなんだろう。
二階に辿り着く。
一階の大広間のような感じではなく、細い廊下にいくつもの部屋が並んでいる。
何より、水樹さんが言っていたヒュイド族とやらのマークが描かれた旗が、
そこら中に貼り付けられていた。
「この感じは…。永宮クン、ここからは一人で行動してそれぞれの部屋を調べてくれるかしら」
さっき一人で行動すると死ぬ、と言っていたのに。
すると、思考を読んだかのように水樹さんが言った。
「大丈夫よ、ヒュイド族はここにはいないわ。アクアード星の奴らも一階に集まっているしね」
一体どういうことなんだろうか。
そう思いつつも、近くにあった扉を開けて中に入る。
机の上に、古いタイプの銃の設計図が敷かれている。
いくつかの部品も無造作に転がっている。
近くにあった本棚から、一冊本を抜き取る。
パラパラと捲るが、文字はとうぜんながら読めない。
挿絵などからわかったのは、これは古いタイプじゃない、レーザー銃の作り方を示した本のようだ。
本の裏には、丁寧にヒュイド族のマークが描かれている。
「ブルヒヒン! 永宮君、大丈夫ヒン?」
馬のマスクを頭に被った、特徴的なシルエットの人が部屋に入ってくる。
「ヒュイド族…。これは一旦帰って隊長、いや総帥あたりにも報告しないといけないヒン」
あたりを見回しながら言ったプフェーアトさん。
総帥?
「総帥って誰ですか?」
そう言うと、プフェーアトさんはこちらに近づき耳元でささやいた。
「隊長の上の一番偉い人だヒン。そして、班長がひそかに片思いしてる人だヒン」
「そ、そうですか…」
突然の暴露に、腑抜けた声しか口から出なかった。